「幻想小説」と呼ばれるものは概して苦手なのだけど、ごくたまに心をわしづかみにされるようなビジョンを描き出す作品に出会うことがある。その筆頭が、本書にも収められている「遠近法」だ。SFのアンソロジーで読んだとき、そのイメージ喚起力に完全にノックアウトされた。
「作品集成」にはちょっと手が出なかったのだが、これならばと買いこんでみたものの、最初の「夢の棲む街」がどうにも苦手な部類の「幻想小説」で…。「遠近法」だけ読み返して積んであったのを、なんとなくまた読んでみることにしたのだった。
「夢の棲む街」は、やはり好きとは言えないけれど、独特の硬質な世界に圧倒される。これが大学生の時のデビュー作とは。著者が巻末の「自作解説」で「すべてがここにある」と語っているのに納得した。グロテスクな要素もあり、血や粘液が流れる描写もあるというのに、冷え冷えとしたノーブルな空気に支配されている。
圧巻はなんといっても「遠近法」。何度読んでもすばらしい。SF的想像力で作り上げられた異世界には傑作が数々あるが、この「腸詰宇宙」は紛れもなくその一つだと思う。無限に続く塔の内側に階層としてある世界。その中を巡る太陽と月。《蝕》という現象。まさにめくるめくようなイメージで、ため息が出るばかり。断片的な記述を重ねるスタイルも効果的だ。世界の真実を求め、九万階上方の回廊を目指した人々の挿話が、残酷で、美しい。ラストの「ウロボロスの蛇」でとどめを刺されてしまう。「語り手」を揺らしてあるのも浮遊感を高めているのだろう。
本書ほど「自作解説」が役に立ったことはない。「月蝕」や「童話・支那風小夜曲集」は解説のおかげで、なるほどねえと楽しむことができた。著者は自分より少し年上なのだが、同じ京都で学生生活を送ったことを初めて知り、にわかに親しみも湧いた。初期の作品は京都で書かれたものも多いようで、さり気ない書き方ながらその頃への愛着が伝わってきた。
- 感想投稿日 : 2017年2月1日
- 読了日 : 2017年1月30日
- 本棚登録日 : 2017年1月30日
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