図書館の新着案内で見かけて、同郷の人だけどどんな人?と思いつつ紹介文を読んだら、なんと!「めっきらもっきらどおんどおん」の作者だって!「めっきら〜」は本当に思い出深い絵本の一つ。作者が出雲の人だったとは知らなかった。嬉しい驚きでページを開いたら、もうまえがきから言葉がしみ込んでくるようで、胸をふるわせながら読み終えた。これはいいです。たくさんの人に読まれるといいなあ。
作者は「平成の大合併」で今は出雲市となった平田の生まれである。「幾重にも重なって底光りするガラス絵のよう」に脳裏に蘇る「貧しくも豊かだった裏日本の小さな田舎町のいきいきした暮らしの面影」を心底いとおしんで紡がれる言葉が、しみじみ温かく優しい。片っ端から紹介したくなるくだりばかりなのだが、私が一番気に入ったのは、自身の祖父を語っているところと「麗子叔母の一生」という章だ。明治人であるお二人の姿が、なぜか非常に懐かしいものに思えてならない。こういう日本人像はもう失われつつあるのだろう。
私は出雲生まれなので、語られていることに実感を伴ってうなずけるのは当然かもしれないが、本作には単なる「ご当地モノ」ではない輝きがある。ジメジメしない知的な筆致で、至るところに深い洞察に満ちた言葉がある。そこに何より心を打たれた。
その上で…。「わぁ!」と声を上げてしまったのは、作者の祖父が「一畑電鉄」創立に奔走した人で、おまけに作者の父はその社長を務めた、という記述に出会ったときだ。最近映画にもなったが、かつての出雲地方の子どもにとって「一畑」は特別だった。眼病に霊験あらたかな一畑薬師、の側にあった「一畑パーク」は地方随一(唯一)の遊園地(動物園付き)で、ハレのお楽しみの場所だったのだ。「一畑百貨店」はこれまた唯一のデパートで、入口のジュースが噴水みたいに吹き出てるヤツ(あれはなんて言うんだろう)も、屋上の乗り物も、ガラスケースのなかの真っ赤なエナメルバッグも、子供心を惹きつけてやまない、憧れに満ちた祝祭の場だった。残念ながら今はもう電車以外なくなってしまった。「一畑」に寄せる出雲人の思いは深いのである。「めっきら〜」の作者がそこに連なる人だったとは…。
もう十五年以上前娘が通っていた幼稚園のお楽しみ会の出し物に、お母さん達で「めっきら〜」のペープサートをした。人形を手作りし、音楽をつけ、準備は大変だったが、当日は大受けで自分たちも実に楽しかった。繰り返し繰り返し読んでやった絵本とともに、子どもたちと共に過ごした時間の大切な思い出の一つだ。静かにつながっているご縁を感じて、なんとも温かい一冊になった。
- 感想投稿日 : 2011年8月8日
- 読了日 : 2011年8月8日
- 本棚登録日 : 2011年8月8日
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