世界の辺境とハードボイルド室町時代

  • 集英社インターナショナル (2015年8月26日発売)
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感想 : 104
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おもしろかった-! 読み終わるのがもったいないのに、ずんずん読んでしまった。このコンビでまた本を出してほしい。

ソマリランドと室町時代? そりゃどういう取り合わせ? 当たり前と言えば当たり前の疑問は、高野さんによる「はじめに」でそっくり期待に変わる。ソマリ人をはじめ、アジア・アフリカの辺境全般に、中世を中心とした過去の日本と共通する部分が多々あるというのだ。ソマリの内戦は応仁の乱に似てるらしい。いやあ、これはおもしろそうじゃないですか!

とにかく高野さんの嬉しそうなこと。ソマリについては日本ではほぼ唯一の専門家で、話の通じる人など皆無だったのが、思いもかけぬ所から「同好の士」が現れたわけだ(「青い鳥がすぐ近くにいた上に、実は黄色かった」とあって、笑った)。中世史の研究者である清水克行氏との対談は、その心の弾みがベースになっていて、読んでいてとても楽しい。高野さんが「生徒役」というばっかりではなく、高野さんが語る世界の辺境について、清水先生が「なるほど~」と納得する場面もしばしばあり、そのバランスもとてもいい。

中世・近世については近年研究が進んで、かつてのイメージとは違う姿が浮かび上がってきているようだが、こうして具体的な話を聞くと、そのことがよくわかって興味深い。読みながら「へぇ-」「そうなの」と言い通し。
・なぜ日本には「仇討ち」があっても「賠償」の発想がないのか。
・「刀狩り」後も農民たちは刀を持っていたが、一揆には鎌や鍬を持って行った。
・綱吉の「生類憐れみの令」は都市治安対策・人心教化策だった。
・軍事政権や独裁者は平和を指向する。
などなど、もう挙げればキリがない。帯の中島京子さんの言葉通り、目から鱗がボロボロ落ちる。

清水先生によると「中世史の古文書は適量」で、「トータルな時代イメージを作りやすい」らしい。また、若いときにインドへ行ったことが、中世の時代感覚をつかむのにとても役立ったとか。勝俣鎮夫という中世史研究者も「歴史学者は若いうちに発展途上国に行った方がいい」と言っていたそうだ。今の日本人には、「世界の辺境」と「昔の日本」は共に異文化だが、双方を照らし合わせることで思いがけない理解の道が開けてくる、というこの知見は素晴らしいと思う。

終わりの方で清水先生が、決して平坦ではなかった研究者としての道のりを語っていて、これが心に残った。大学で出会った藤木久志先生は、生意気な質問をした自分に、校舎の周りを三周もしながら訥々と説明してくれた、「研究者とはこんなにも真摯で誠実なのかと思った」という。大学院を出ても就職先がなく、家族を抱えて講師で食いつないでいたときに、本にした博士論文を読んだ編集者が執筆を依頼してくれたことが「人生で一番嬉しかったかもしれない」とある。その博士論文「室町時代の騒擾と秩序」は九千円以上もし、部数六百部。講談社選書メチエの方だそうだが、すごい人がいるものだ。

一方の高野さん、ノンフィクションを書くときのスタンスについて、いつもよりつっこんで語っている。「人としてこの問題は直視すべきだ」というような姿勢で書かれたノンフィクションは、人にストレスを感じさせ、かえってそこから遠ざける、という意見に同感。高野さんの書くものはいつも、笑わせながら新しい世界、新しいものの見方を差し出してくれる。そこがいい。

装画はなんと、山口晃画伯の馬バイク。ナイスである。山口ファンの高野さん、さぞ嬉しかったであろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 対談・インタビュー
感想投稿日 : 2015年9月1日
読了日 : 2015年9月1日
本棚登録日 : 2015年9月1日

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