村上海賊の娘 下

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  • 新潮社 (2013年10月22日発売)
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木津砦の攻防は続く。
その中で、村上海賊の娘・景は戦いにまみえようとしたものの、戦での活躍に甘やかな感傷を抱いていることを眞鍋海賊の猛者・七五三兵衛に見抜かれ、瀬戸内に戻る。
しかしながら、自分以外の何ものかのために戦う、門徒留吉たちのために戦場へと戻っていくのであった。

泉州の海賊の価値観は「面白(おもしゃ)い奴ら」であることが最上位のようだ。真面目すぎたり、策を練ることや武器に頼る戦いを優先する者たちを、蔑んでいるところがある。
戦いは、自分のために、持てる力をすべて出し切るような個と個の対決を尊ぶ。

また、瀬戸内の海賊や毛利家の者たちは自家の存続のために戦う。
いずれにせよ、センチメンタルの入り込む余地はない。

しかし、景は、自分を認めさせるような功を得たいと願っており、泥臭さのかけらもない。
その景が門徒たちの姿に心打たれて参戦するさまは、ドラマなら見どころとなるだろう。

ここまで読んできて、ようやく思い至る。
この時代、戦とは自分のまたは自分を含む家のために行うものであって、思想のため、国のためという戦争とは異なっている。
だからこそ、あっけらかんとしていて、感傷を嫌うのであったのか・・・?
戦場には血が溢れ、身体を切断する描写が多い。泥臭くてうんざりする。
しかし、これこそが戦国時代なのだろう。

かえって、留吉や源爺のような自分のためでなく、ひとのために戦うという考え方の方が、何ものかが人を戦いに駆り出してしまうということが危険に思えてならない。

そして、ようやく、最後のページまでたどり着いた。
私にとっては、なかなか大変な作品だった。
でも、次の言葉に出会えて、読むのをやめなくてよかったと思った。

いずれの人物たちも、遁れたい自らの性根を受け容れ、誰はばかることなく生きたように思えてならない。そして結果は様々あれど、思うさまに生きて、死んだのだ。(P499)

『思うさまに生きる』
いかに難しく、いかに自由なことか。
苦しんで登った山頂で見ることのできた景色のようだ。
心に留めておきたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2014年8月21日
読了日 : 2014年8月20日
本棚登録日 : 2014年8月21日

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コメント 6件

だいさんのコメント
2014/08/21

>苦しんで登った山頂
お疲れ様でした。
がんばった甲斐があったのではないでしょうか。

>ひとのために戦うという考え方
この考えを持つのは、十字架を崇める人たちですよね。

nico314さんのコメント
2014/08/21

だいさん、こんばんは!
いつもコメントありがとうございます。

はい。頑張った甲斐がありました!
読書を『がんばった』というのも、変ですね。
夏休みの数日をつぎ込みましたよ。

近代の戦争との違いに驚きながら読みました。
とても原始的な戦いという感じがします。

vilureefさんのコメント
2014/08/22

こんにちは。

この本、ず~っと気になっておりました。
読みたい本リストの中のトップの方に鎮座したまま。

でもnico314さんのレビュー見て、諦めました(^_^;)
時代小説が基本的に苦手な私にはちょっとハードルが高そう・・・。
「のぼうの城」は楽しく読めたのでイケるかもと思ったのですが、安易に読み始めても撃沈しそうです。

いつか映像化される日を待ちます。
といって時代劇もちょっと苦手ですが・・・。
あー、本当に時代小説好きの人には頭が下がります(笑)

nico314さんのコメント
2014/08/22

vilureefさん、こんばんは。

うわー、ごめんなさい。
本の良さをお伝えできなかった上に、手に取った本を戻させるようなレビューになってしまったこと、深くお詫びします。

私も「のぼうの城」がよくて興味を持ったのですが、こちらの方が戦いの描写が多くて感情移入しづらかった面はあります。
特に、上巻は厳しい戦いだった!(笑)
実は、同僚さんもあきらめさせちゃったので、反省中です。

こんな私が言うのも何ですが、最後の50ページは特に読みごたえがあります。
慣れてない私でもはまりましたから、読むのを止められないと思います。

お時間のある時に、是非!

vilureefさんのコメント
2014/08/25

いやいやいや、こちらこそお気遣いありがとうございます。
本当に時代小説が苦手で、何冊も途中で放り投げてるんですよ・・・(^_^;)
だから無理は禁物なのです。

nico314さんのコメント
2014/08/25

この本を貸してくれた同僚さんと話していたんですけど、
「男子はチャンバラみたいなこと好きですからね~。血が沸き立つって感じです!」
と言っていました。
そこら辺が、女子たちとの違いなんでしょうかねぇ~。

私は時代小説の戦わねばならなかった苦悩や抗えない苦しみと折り合いをつけるみたいなところに惹かれます。

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