歌人である河野裕子氏と永田和宏の出会いから、結婚・子育て・闘病、そして別れまでを、お互いの短歌とそれぞれが発表してきた文章を交えて、綴っていく。
河野氏は主婦として母親としての役割を果たしながら、歌人としても大いに成功を収めてきた。永田氏は京大の教授としても活躍されている。
2人とも歌人としてばかり時間を使えないのは同じであるのに、その歌はずいぶん様相が異なる。永田氏は仕事や歌の世界の区切りがはっきりしてるのに、河野氏はその境界が混じりあっていて、互いに有機的につながっているように感じる。これは、性別によるものなのか、彼女の個性なのか、とても興味深い。
さらに、河野氏の文章(新聞や本などに当時掲載されたもの)は、軽妙でありながらしみじみとかみしめたくなる味わいがある。
ものを書く人として生まれてきて、それを全うした人なのだなあと今改めて思う。
お二人はなんでもよく話し、時に喧嘩をすることがあっても、互いを思いあうおしどり夫婦であったことは間違いない。その上、共通言語である短歌を通して、また別の見方で(短歌を詠まない私には感じることはできないが)、お互いを深く理解し、また、これ以上分かち合うことはできないこともあるのだということを知っていた。魂のレベルで共感するとでもいえばいいのだろうか?
短歌という制約された文字数の中で、より輝きを放つ部分だけを切り取られた情景。余分なものをそぎ落としてこそ、強い思いや哀しみ、辛さを浮かび上がらせることができる。
短歌に詳しくない私が読んでも、後半、特に病を得てからの河野氏の歌には、多くの人にストレートに届く強さが際立つ。喜びも哀しみも、うれしさも不安も、いろいろなことが混ざり合って本質が見えにくくなっていることがある。けれど、因数分解をするように、それを形成しているいくつものことがらを解きほぐし、その性質や成り立ちのもっとも肝心なところを取り出して見せてくれる。
ああ、もっともっと裕子さんが何を見て、何を感じるのか、知りたかった。
新たな歌をこれ以上読むことができないのは、残念でなりません。
- 感想投稿日 : 2015年4月19日
- 読了日 : 2015年3月13日
- 本棚登録日 : 2015年3月14日
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