流れるような筆の運びで江戸の草草を書き綴った西鶴。大矢数はもとより、多くの好色物から世話物、またいささか教訓めいたものまでを、己の中から湧き出る言葉をすらすらと墨字にかえて面白おかしく哀惜を込めて書き記した人だと思っていた。
本作は、その西鶴を早くに亡くなった妻の代わりに支えている盲目の娘おあいを通して描いたものだ。取り巻き連との掛け合いや板元との駆け引きなど、なるほど名のある戯作者とは、こういう生活だったのだろうという日々の中から、ある時、筆で身を立てるということを真剣に模索し、言葉を紡ぐ苦しみに打ちひしがれる西鶴。それまでは父の愛を自分勝手なものとして疎ましくすら感じてきたおあいだったが、そんな父をやさしい気持ちで包み込むことができるようになった。
西鶴は書いたものを必ず声に出して推敲したとあるが、もし諸国ばなしの序を読み上げていたとしたら、一生嫁にもいかず、父のそばで家を取り仕切ってきたおあいは何と思って聞いたのだろうか。学生時代、先生が「君らはもう大年増ですよ。」と笑いながら教えてくれた講義を思い出し、そんな風に考えてしまった。
「世間之広き事、国々を見めぐりて、はなしの種をもとめぬ。 …… 都の嵯峨に四十一迄、大振袖の女あり。是をおもふに、人ハばけもの世にない物ハなし。」
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
女流文学
- 感想投稿日 : 2014年11月28日
- 読了日 : 2014年11月27日
- 本棚登録日 : 2014年11月19日
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