もうだいぶ前になるが東京創元社からのメルマガの『本と人の奇跡を描いた伝説のシリーズ第1弾、待望の文庫化』という惹句を見てずっと「読みたい」に入れていた。手にした本は、表紙のイラストも感じ良く。
世界情勢の変化と電子書籍の普及により、紙の本が貴重な文化財となった近未来。そんな時代に本を利用者に無料で貸し出すサエズリ図書館。その代表を務めるワルツさんと図書館を訪れる人たちのお話。
第三話まではややつかみどころかない話が続く。わざわざこういった設定だし、紀元前の昔に貴重な文書とともに焼け落ちたとされているアレクサンドリア図書館への言及など、きっと紙の本推しの話なのだろうと思う(単行本版あとがきにも『電書ですか?本ですか?』という問いかけがあった)が、あまりそういうことを感じることもなく、どちらかと言えば、本と無縁の生活を送っていた会社員カミオさんや娘との距離を感じる小学校教師コトウさんのキャラが目立つ「サエズリ図書館のおかしな常連さんたち」といった体。
まあ、それはそれで楽しく読めるのだが、ちょっとした引っ掛かりが説明されているようないないような、しっかり読んでいたら分かるでしょうということか、ちょっと微妙な違和感もあり。
第四話になってようやくこの近未来の世界が描かれ、物語の背景やワルツさんの出自が知れてくると、『わたしが死んでも、本は残る』というワルツさんの養父の言葉に、本という『古い過去から。つながる命から。贈り物がある』というテーマがしっかり腑に落ちてくる。
そこから、ネットワークから遮断された図書館の中で子どもたちが本の質量を感じていく番外編へのつながりがなかなか良く出来た話になった。
最初から出来あがっていた話ではなく、書いている内にどんどんと肉付けされていったという印象。そう思うと、続巻が楽しみ。
- 感想投稿日 : 2024年2月25日
- 読了日 : 2024年2月24日
- 本棚登録日 : 2024年2月25日
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