隅田川に架かる両国橋の西岸、今の東京都中央区東日本橋2丁目辺りが物語の舞台。
「両国」といえば、隅田川の東岸、国技館のある辺りをわれわれは思い浮かべるが、三十数年前までそこは「東両国」(もしくは「向こう両国」)であり、本来の「両国」あるいは「西両国」こそ、江戸時代以降、浅草と並ぶ繁華街であった。ところが1971年に地名変更で名前が消えてしまったという。
小林氏は、創業享保八年、江戸から明治、大正、昭和と続いた老舗和菓子店〈立花屋〉の9代目。ところが、関東大震災、東京大空襲という惨事により、日本橋という街は没落。重なり合うように、店も父の代で途絶えた。街と家の歴史と栄枯盛衰を描いたのがこの本。
年代記(クロニクル)小説にならないように、私小説にもならないように努めた・・と、筆者はあとがきに当たる「創作ノート」で説明している。土地の人間の心情を描くのが狙いだと述べるとおり、抑制した筆遣いで、そして深い愛情をにじませながら書きつづった、まさに「叙事詩」というのがふさわしい。
そんな淡々と書き進められた最後にやってくるクライマックスがすごい。
戦後、筆者は両国を離れ、再びそこを訪れるのは戦後40年後。昔を思い出させる面影はほとんどない。でも、鳥肌が立つような、あっと驚く結末が待っている。
菓子屋の歴史は、文字通り、そこに埋もれていたのだ。「祖父のこの土地への強烈な執念を私は感じた」と小林氏は感慨をつづる。読者も、心にしみ入るような読後感を味わうことになる。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2010年3月7日
- 読了日 : 2010年3月7日
- 本棚登録日 : 2010年3月7日
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