現代の基準からすると少し古臭く感じたり、炎上しそうな記述も多いのだが、それを補って余りある名著だろう。今をときめくソフトバンクグループの孫正義会長も高校時代、本書に影響されて、著者の藤田田氏に会いに行っている(その行動力も凄い)。
「モノづくり」や「職人気質」が大好きな日本人が金融資本に感じる違和感、外資系企業のドライな人事、極薄の日本企業の粗利率……。普段なんとなく感じている疑問点の答え=ユダヤの商法=欧米ビジネスパーソンの行動原理が、1972年に刊行された本書に書いてある。
『時を盗むな』とはユダヤ人のエチケットなのだそうだが、日本人はその逆を行く。コロナ禍で少しは減った気もするのだが、いまだに「あれなんだったの?」という会議は多いし、回りくどい承認手続きや決裁事項も多い。少し前から指摘されている、日本人のホワイトカラーの生産性が低い問題も、『時を盗むな』というユダヤ人と『時を盗んでも気にしない』日本人の単純な思考様式の違いからきているのかもしれない。
「ザ・商人」のイメージが強い著者なのだが、実は数字に強く、マクロ指標にまで目を配っていた。それがよくわかるのが、PartⅣ「『円』を吸うユダヤ商法」である。昨今は、自社の数値を見て、経営判断する経営者は増えてはいるのだが、藤田氏はさらに上を行っていた。
ニクソンショック前後の外貨準備高の増加とユダヤ人の投機の動きを見て、円切り上げを喝破。リスク回避のために、輸出ビジネスの大幅縮小を決めている。
歴史を振り返ればわかるように、10年単位でインパクトの大きい経済危機は起きている。マクロレベルで発生する経済危機は、ちょっとした工夫で生きてきたビジネスを丸ごと吹き飛ばしたり、業界ごとなきものにしてしまうことさえある(一方で機会をとらえて大儲けするものも)。
金融緩和バブルにコロナ禍バブルが上乗せされて、昨今、さまざまなマクロ指標が異常値になっている。藤田氏が存命なら、どんな見立てをするのだろうか。
- 感想投稿日 : 2021年5月15日
- 読了日 : 2021年4月30日
- 本棚登録日 : 2021年4月30日
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