ベスト&ブライテスト (上巻) (Nigensha Simultaneous World Issues)
- 二玄社 (2009年12月1日発売)
アメリカをベトナム戦争の泥沼に引きずり込んだ政策決定者たち。彼らを描いた傑作ノンフィクション。
名著と誉れ高いが、読んで納得。
もっと早く読めばよかったと後悔するほどいい作品だった。お薦め。
「最良にして最も聡明な人たち - ベスト&ブライテスト - 」とは、ケネディ大統領が集めジョンソンが引き継いだ、合理的で実行力があるエリート達のこと。そんな彼らがなぜベトナム戦争という愚行に突き進んだのか?
バルバースタムは彼らエリートに潜む傲慢、驕り、うぬぼれを浮き彫りにして政策決定を歪めていく過程を丹念に描く。そしてなにより政権参加者の人物描写がいい。生い立ち、価値観、考え、癖、行動スタイルなどをエピソードを交えて緻密に描写していく。これが読ませる。本書の醍醐味である。
スタイルと知性を重視したジョン・F・ケネディ。
状況に応じて考えを変えることができる柔軟性をもった弟ロバート・ケネディ。
元ハーバード大学長で切れ者の補佐官マクジョージ・バンディ。
数学と統計の才能に恵まれた元フォード社社長の国防長官マクナマラ。
八方美人でひたすら勤勉な元ローズ奨学生の国務長官ディーン・ラスク。
政治家、軍人双方から尊敬されたインテリ軍人テーラー将軍。
ケネディ亡き後このドリームチームを引き継いだのが南部出身がコンプレックスの上院議会のボス、密室政治家リンドン・ジョンソン。
上流家庭に生まれる。学歴がある。合理的で頭の回転が速い。仕事もできる。東部の上流層に人脈がある。当時のアメリカ社会のトップにいる人びと。
完璧だ。その名の通り「最良にして最も聡明な人たち」だ。
何事も成せばなると思っている彼らにとってベトナムで戦うことは簡単だった。‘負けるわけないじゃないか、あんなアジアの小国に’と。ベトナム戦争は8ヶ月で終わるはずだった。しかしケネディ政権からの関わりから数えて15年。ジョンソン政権の本格的な戦争(北爆)から数えて11年続く。
ベトナム介入反対派を締め出し戦況に関する悲観的な情報は握りつぶす。自己に不利な情報は見なかったことにする。世界を自分の意のままにコントロールできるというその傲慢さ。その驕り。そのうぬぼれ。であるがゆえにアメリカをベトナム戦争に引きずり込み、米国社会に深い傷を残した。ハルバースタムの筆致は容赦なく政権内部の人物たちに切り込んでいく。
D・ハルバースタムはジャーナリストというより(もちろん優れたジャーナリストだけれども)、優れたストーリーテラーだと思う。事実を淡々と並べるのでなく、物語のなかで人物や事象を描く。
3年前に交通事故で死んでしまった。ホントに惜しいし残念だ。イラク戦争の取材を死ぬ間際まで精力的にしていたというし。レポート読みたかったな。
実際、ケネディーグループの人たちはホントに頭がよかったのか否か?という真偽は脇に置くとして、この本は重要なことを示唆しているように思う。
政治家が無能では駄目だ。それは全くその通り。
でも、ベスト&ブライテストば必ずベストな意思決定を(する場合もあるが)してベストな結果を出してくれるということではない。
この頭を抱えたくなるような事例にどう向き合えばいいんだろう。。
- 感想投稿日 : 2012年8月10日
- 本棚登録日 : 2011年10月29日
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