「グスコーブドリの伝記」を始めとする珠玉の童話や心揺さぶる詩の数々を生み出した宮沢賢治、実は金持ちボンボンの甘えん坊だった? 親に無心を繰り返し、生活力がなく自立出来ないコミュ障気味の軟弱者。絵空事を夢想し、思い通りにならないと宗教に走る未成熟な半端者。え~、そうなの? それもこれも、商売に厳しくも長男にベタ甘の父親に育てられせい?
本書は、質屋兼古着屋を営む宮沢政次郎が、長男の賢治をどう育て、どう見守っていたのか、父親の視点で宮沢賢治を描いた作品。
「(逃げている)質屋という職業から。長男という境涯から。いっそう本質的なところでは、食うために稼ぐという人間行為の真の価値から」、「宮沢家という経済力のある家庭にめぐまれ、小学校のころは神童とまで呼ばれるほどの秀才でありながら、気がつけば凡人ができることもできない。単なる無職の男」、甘えん坊の意地っ張りで、病気もちの引っ込み思案なお人好し。そして深すぎる兄妹愛。童話は大人の世界からの逃避? 家庭を持てず子供を作れない代わりに童話を生み出した? 「雨ニモマケズ」、自分に無いもの、すなわち健康な身体と自立した逞しい精神を切に求めた(無い物ねだりの)詩だったんだな。
賢治作品に通低する純真さや自己犠牲精神は、賢治の心の脆さ・世俗を生き抜く逞しさの欠如と裏腹の関係にあるんだな? 宮沢賢治作品について深く考えさせられた作品だった。(作品自体の魅力は色褪せないにしても)これから賢治作品の読み方変わってしまうかも。
賢治が病床の愛妹トシに童話を語り聞かせるシーンにはジーンときた。
「成長とは、打たれると知りつつ出る杭になることなのかもしれない」っていい表現だな。
- 感想投稿日 : 2023年6月2日
- 読了日 : 2023年6月2日
- 本棚登録日 : 2023年6月1日
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