穢土荘厳 下 (文春文庫 す 1-11)

著者 :
  • 文藝春秋 (1989年5月1日発売)
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感想 : 3
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下巻は、藤原4兄弟が次々に疱瘡で亡くなるところから、毘盧遮那仏(大仏)造立、橘奈良麻呂の乱まで。
 陸奥の小田郡で黄金が発見され、年号が天平感宝と変更し、その黄金が大仏の顔に塗られることになる。本小説の冒頭で、三田五瀬が対馬で黄金が発見されたとの偽ったことから年後を大宝と改めてしまった(恥ずかしい)エピソードが語られており、ころころと年号を改める滑稽さが強調されている。黄金といえば、「風の陣」の冒頭に繋がるなあ。ここから朝廷と蝦夷の長い対立が始まるのだっけ。
 墾田永世私財法は、貴族や大富豪に「位階を餌にして喜捨を募り、見返りとして墾田面積の拡大と私有を許す」ものだが、やがて公地公民の原則を崩し、天皇先生の基盤にヒビを入らせることに。蘇我系女帝を完全に排除し、藤原氏系の天皇による盤石な体制を敷くために行われた数々の陰謀の中で、陰謀に抗せずに心を病んでしまった聖武天皇。その聖武天皇が恭仁京に遷都するなどさんざん流浪した後、大仏に縋ろうと必死になっている姿に悲哀を感じる。行基がその心を知った上で勧進聖を務め、夏雄が帰依して利他行に励んでいる姿が物語に救いを与えている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史小説
感想投稿日 : 2014年2月22日
読了日 : 2014年2月21日
本棚登録日 : 2014年2月6日

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