2007年に刊行された「街場の中国論」の増補版。2011年刊行。Ⅱ講義篇は、「街場のアメリカ論」に続く、神戸女学院大学の大学院で行った2005年の講義を纏めた、待場シリーズの第二弾。「日本国外でもリーダブルな中国論」、「中国人が読んでも「なるほど、そうか……」と納得できるようなもの」、「日中の世界像の〈ずれ〉を中心的な論件にした中国論」を目指した書とのこと。後から付け足されたⅠ街場の中国論の方が、時事ネタを扱っていて今読むと古臭い感じがする。
著者の父親・義理の父親は、いずれも先の戦争で中国に恩義を感じ、戦後日中友好に尽くした人物だったとのこと。このためか、著者は中国の反日政策や乱暴な国内統治に寛容というか、肯定的な理解を示している。
著者によれば、中国の伝統的な中華思想は、中心部=中華から発信する「王化」の光があり、それが届かないところ=周縁部には「化外の民」(北狄、南蛮、東夷、西戎)がいて緩く臣従し、境界線を定めずにその全体を「王土」として曖昧なまま帰属させる、というもの。そして、「伝統的な中華思想を受け継ぎ、統治の基本理念を「王化」戦略においている」現代中国に対して、その「王化」ルール、すなわち華夷秩序に付き合うのが日本の国益にかなう、と説いている。
このように考えれば、尖閣諸島を巡る国境問題は曖昧なままでよく、また形式的に隣国に敬い従って入れば、隣国の圧力を脅威に感じる事もなくなる、ということになる。そして日本がこのようなポジションを取ろうとしたときの最大のネックは米国だという(米国のアジア戦略は、日中、日韓、中韓に適度な緊張関係を維持すること)。
中国をアジアの盟主として奉るというのは、さすがに心情的に抵抗感あるけれども、過去の歴史を振り返ってみてそれがアジア地域の安定に最も有効な手立てだとすれば、そのような戦略も「アリ」なのかなあ。何れにしても、これまで読んだことのなかった新鮮な対中国論だった。
- 感想投稿日 : 2019年4月14日
- 読了日 : 2019年4月14日
- 本棚登録日 : 2019年4月11日
みんなの感想をみる