Think Simple ―アップルを生みだす熱狂的哲学

  • NHK出版 (2012年5月23日発売)
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感想 : 55
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広告代理店のクリエイティブ・ディレクターとしてスティーブ・ジョブズを支えた著者が、容赦なく徹底的に "シンプルさ" を追求するジョブズ・アップルの特異さ、そして偉大さを語った書。

「人間はシンプルさを好む」、「選択肢を与えられたときに、正常な人は複雑な道よりもシンプルな道を選ぶ」「シンプルにすることは本当はむずかしいのに、簡単そうに見えることがある」(シンプルさの呪い)

著者は、複雑さを増す社会にあって"シンプルさ" を徹底することは極めて困難で、それゆえシンプルなものは希少であり価値が高いという。「シンプルさは現代のビジネスにおいて、最強の武器」なのだ。これはとてもよく分かる。余計な機能が増えて操作が複雑になり、かえって魅力が下がっていく商品って結構あるものな(ソフトウェアに多いような気がする)。

ここで言う "シンプルさ" は、単に製品のデザインやネーミングのみを指すのではなく、「アイデアにも製品にもなるし、インスピレーションにも、最終結果にも、一連のプロセスにもなる」包括的な概念だ。生き方やポリシーに繋がるものと言えるかも知れない。

さて、著者が語る、アップル・ジョブズから学ぶべき "シンプルさ" の10のコアな要素は、「容赦なく伝える」、「少人数で取り組む」(最終的な意思決定権者が加わる必要あり)、「ミニマルに徹する」(伝えるべきメッセージは一つ、提案の選択肢は悪)、「動かしつづける」(余裕あるスケジュールは悪)、「イメージを利用する」(本質を表すシンプルで力強いコンセプトのイメージを見つける)、「イメージを決める」(シンプルなセンテンス、シンプルな言葉)、「カジュアルに話しあう」(スタートアップ企業の文化を維持する)、「人間を中心にする」(人の声で語る、人間はシンプルなものに反応する、人類に忠実であれ)、「不可能を疑う」(ときに専門家の意見に反しても "常識"に基づいて果敢に行動する)、「戦いを挑む」(あらゆる武器を使う、フェアな戦いをしない)、となっている。

本書、頷ける部分が多かった(ただし、「もっともやってはいけないことはフェアな戦いをすること」はさすがにいただけない)。それにしても、著者のジョブズへの心酔ぶりは相当のもの。また、ジョブズがストイックに "シンプルさ" を追求する姿を讃えつつ、それを支えた自らの能力の高さもさりげなくアピールしている。(穿った見方かも知れないが)この辺りやや鼻につく感じがした。

確かに、ジョブズがアップル復帰後に早速行った "think different" キャンペーン、そして斬新なデザインのiMacとその後の一連の製品のネーミングの妙。実に見事な復活劇だった。ジョブズが最初につけようとした名前はなんとウォークマン二番煎じの "マックマン" ! だが、著者の発案、説得で iMac に落ち着いたのだという。そして、iPod、iTunes、iPhone、iPad、一連の "i" を冠した商品群、なるほどシンプルで完璧なネーミングだ。商標権問題で訴訟も辞さず強引にことを進めたジョブズのこだわりも確かに凄い。「弁護士などクソ食らえ」なんてなかなか言えるもんじゃない。

いずれにしても、自分はアップル製品のファンじゃない(アンドロイド派)なので、共感できない部分もあったし、何と言ってもジョブズの暴君的な面には魅力より恐怖を感じてしまった。という訳で、本書はアップルファンにこそオススメの書だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2021年3月24日
読了日 : 2021年3月24日
本棚登録日 : 2021年3月23日

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