古今の著名な哲学者や社会心理学者、文化人類学者、神経科学者などが主張・提唱しているの50の「哲学・思想のキーコンセプト」を紹介した教養書。
面白かったのは、ニーチェの「ルサンチマン」(いわゆる "やっかみ" )を解説したところ。「ルサンチマンは、社会的に共有された価値判断に、自らの価値判断を隷属・従属させることで生み出され」るのであり、「いわゆる高級品・ブランド品が市場に提供している便益は「ルサンチマンの解消」と考えることができ」、「ルサンチマンを生み出せば生み出すほど、市場規模もまた拡大する」という。高級品ビジネスが「ルサンチマン」を巧妙に生み出す、人間の本性に根差した賢いビジネスであることが理解できた。また、「ルサンチマンを抱えた人は、多くの場合、勇気や行動によって事態を好転させることを諦めているため、ルサンチマンを発生させる元となっている価値基準を転倒させたり、逆転した価値判断を主張したりして溜飲を下げようと」する反応を取ることがあるという。「聖書」や「共産党宣言」が「ルサンチマンに根ざした価値判断の逆転」を提案するキラーコンテンツとしての面があるということ、頷けた。
このほか、本書で響いた部分をピックアップしてみる。
「行為は、その行為による報酬が必ず与えられるとわかっている時よりも、不確実に与えられる時の方がより効果的に強化される」、「不確実なものほどハマりやすい」
「悪とは、システムを無批判に受け入れることである」
「社会の圧力が行動を引き起こし、行動を正当化・合理化するために意識や感情を適応させるのが人間」
「自分の良心や自制心を後押ししてくれるような意見や態度によって、ほんのちょっとでもアシストされれば、人は「権威への服従」を止め、良心や自制心に基づいた行動をとることができる」
「人が創造性を発揮してリスクを冒すためには「アメ」も「ムチ」も有効ではなく、そのような挑戦が許される風土が必要だということであり、更にそのような風土の中で人が敢えてリスクを冒すのは「アメ」が欲しいからではなく、「ムチ」が怖いからでもなく、ただ単に「自分がそうしたいから」」
「戦前には村落共同体が、高度経済成長期からバブル期までは企業が担っていた、社会におけるゲマインシャフト的な要素は、何が担うことになるのか。 鍵になるのは「ソーシャルメディア」と「2枚目の名刺」だろう、というのが私の考え」
「私たちが安易に「究極の理想」として掲げる「公正で公平な評価」は、本当に望ましいことなのか。仮にそれが実現したときに「あなたは劣っている」と評価される多数の人々は、一体どのようにして自己の存在を肯定的に捉えることができるのか。そのような社会や組織というのは、本当に私たちにとって理想的なのか。」
「科学理論というものは「反証可能性を持つ仮説の集合体」でしかない」
「つまり、用途市場を明確化しすぎるとイノベーションの芽を摘むことになりかねない一方、用途市場を不明確にしたままでは開発は野放図になり商業化は覚束ない」
いずれも含蓄のある言葉。記憶に留めておきたい(まあ忘れてしまうだろうけど)。
巻末で著者が紹介している参考図書のなかでは、以下の本を読んでみたいと思った。
○マックス・ヴェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
○エーリッヒ・フロム「自由からの逃走」
○アダム・ハート=デイヴィス「パブロフの犬:実験でたどる心理学の歴史」
○キャサリン・コーリンほか「心理学大図鑑」
○内田樹「寝ながら学べる構造主義」
○橋爪大三郎「はじめての構造主義」
○レヴィ=ストロース「悲しき熱帯」
○アントニオ・R・ダマシオ「デカルトの誤り」
○東浩紀「一般意志2・0」
○堂目卓生「アダム・スミス」
○マット・リドレー「進化は万能である」
○マルセル・モース「贈与論」
○ジャン・ボードリヤール「消費社会の神話と構造 新装版」
○ナシーム・ニコラス・タレブ「反脆弱性」上下
そういえば、「反脆弱性」、何年か前に買ってあったよなあ。
- 感想投稿日 : 2021年1月25日
- 読了日 : 2021年1月25日
- 本棚登録日 : 2021年1月22日
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