ロケット・ササキ: ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2019年3月28日発売)
4.24
  • (23)
  • (24)
  • (7)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 172
感想 : 19
4

孫正義氏が「大恩人」と言い、スティーブ・ジョブズ氏が「師」と仰ぎ、松下幸之助氏が「教えてもらえ」と部下に指示し、ロバート・ノイス(インテル創業者)の創業間もない頃に手を差し伸べた、凄まじい技術者が日本にいました。シャープを一流企業にのしあげた佐々木正氏です。
真空管が技術の主流の時にトランジスターの有効性に着目し、トランジスターの次の技術として当時の大手電機メーカーが全て尻込みしたMOS(金属酸化膜半導体)の量産技術を確立させ、1970年代の電卓戦争の中で液晶ディスプレー、太陽電池といったその後の日本の半導体産業を牽引する技術を世に送り出すという業績は圧倒的です。
本書冒頭の1977年のシーンでは、創業間もないスティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏との出会い、それに絡んだ西和彦氏(アスキー創業者)との関わりなど、登場するのが1990年代にパソコンが普及する時代に一世を風靡するビッグネームばかりで、いかに佐々木氏の人脈や先見性が抜きでいたかが分かります。
佐々木氏は半導体開発で行き詰まり助けを請うたサムスン電子のイゴンヒ(現会長)に製造技術を供与しました。後に日本の半導体メーカーは大打撃を受け、技術供与した佐々木氏を「国賊」と呼ぶ人も出てきましたが、佐々木氏いわく「半導体や、液晶テレビなど日本の電機業界の衰退は技術を囲い込み、全てを自前でやろうとし、成果を総取りしようとたことであり、イノベーションとは他の会社と手を携えて新しい価値を生み出すことだ」と諭しています。
松下幸之助氏が「教えてもらえ」と言った時、シャープの役員会では「敵に塩を送るなどとんでもない」という議論が大部分を占めました。ところが創業者の早川徳次氏が「少しばかり教えたくらいで負けるなら、シャープなどその程度の会社だということです。そんなことで負けるシャープじゃない。構いません。行って存分に教えてきなさい」と言って役員連中を一喝したシーンが登場するのですが、このエピソードからは早川氏の器の大きさが伝わって来ます。こういった経営者の薫陶を受けて佐々木氏の考え方も定まって行ったような気がします。
これほどの業績の人を扱ったノンフィクションなのに、1点残念なのは文庫本で300ページ足らずというボリューム。一気に読めてしまうのですが、どうせならもう少しそれぞれのエピソードを深堀して、もっとボリュームのある著作であればよかったのに、と思います。
ただ、読んで損はしないと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション(社会)
感想投稿日 : 2019年12月17日
読了日 : 2019年12月17日
本棚登録日 : 2019年12月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする