AI vs.民主主義: 高度化する世論操作の深層 (NHK出版新書 614)

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  • NHK出版 (2020年2月10日発売)
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SNSは個人が様々な人や情報との接点を持つことを可能にし、その結果として2011年当時の「アラブの春」と言われるような、情報統制下の民衆に広く情報を提供して民主化を加速する要因となりました。一方、2016年アメリカ大統領選挙では、SNSを介してロシアの介入や、現在に至る民衆の”分断”の原因ともなっています。
科学技術が生活を便利にする一方、使い方を誤ると多くの弊害が発生するのと同様に、SNSもその使い方次第で民主主義を加速することも、また衰退させることにもなります。本書はその後者の側面について、2016年アメリカ大統領選挙の実態に迫りつつ、もはやSNSなしでは成り立たない現代において、SNSから発信される情報とどう関わり合うべきかという点について、警鐘を鳴らす内容となっています。
現代ではネットを通じて個人の様々な行動が本人の意識しない間に収集され、それを基に個人の嗜好や性格に至るまで分析されている状況となっています。2016年アメリカ大統領選挙においてもトランプ陣営はそれをフルに活用し、自陣営への投票を促す政治広告だけではなく、民主党支持者が投票しないようにする政治広告も利用しました。本書に登場する民主党支持者は自らの判断で民主党へ投票しないという行動をとりましたが、それはSNSによる巧みな誘導による結果であった可能性が指摘されています。
SNSで個人がどのような投稿に「いいね」をしたのか、100個ほどのデータがそろえば、その人となりはかなり正確に把握できると専門家は断言しています。その分析(プロファイリング)に基づいて、その人が好むような政治広告を集中的に表示させる技術(マイクロターゲッティング)が確立されると、もはや自分とは異なる価値観や考え方に触れる機会が奪われ、分断が深まる(フィルターバブル)という構図が本書で解説されています。
このような時代に、情報とどう向き合うべきかという点を本書後半で述べています。情報過多と言われる昨今ですが、情報の質を見極める力が問われているのは間違いなく、これからの時代で非常に重要なテーマを分かりやすく扱った1冊だと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書(社会)
感想投稿日 : 2020年4月12日
読了日 : 2020年4月12日
本棚登録日 : 2020年4月12日

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