原著1930年。
このあちこちでやたらと言及される本について、かつて読んだと思っていたが、所有はしていなかったのでこの岩波文庫の「新訳」を購入してみた。が、読んでみると、どうやら読んだことが無かったようだ。何故か読んだと思い込んでいただけらしい。
解説によると著者のオルテガは観念論的な哲学者のようで、社会学者でも歴史学者でもない。本書は本格的哲学のおもかげはなく、多分にエッセイ的な文明批評である。もともとスペインの新聞に連載された文章なので、こういう書き方になったのだろう。
ヨーロッパに台頭し街に溢れかえるようになった「大衆」について、自分だけは正しく、確実であると信じ込んでいて、遠い未来のことについては考えず、モラルも理想も欠如している、とする指摘は、なるほど、現在の日本のヤフーニュースのコメント欄や2ちゃんねるのようなところに巣くっている連中に当てはまるように思えて興味を惹かれた。
しかし、本書は社会学的な確かさを持っていないので、実際にどういう言動が見られたとかいうデータは全然なく、著者のおおざっぱな感想を延々と開陳しているだけである。ヨーロッパの歴史に関する意識も、なんだか思い込みで書いているような気がした。
読み進めていくと、だんだんこの著者が頑迷なオッサンで、巷の若者批判の持論をぐだぐだとまくしたてているように思えてきて、次第にウンザリしてしまった。
哲学者なら、もっと厳密な概念定義を行い、自らの思考をも深く考究していくべきではないのか。
そんな印象が強くなり、面白い読書体験とは感じられずに終わってしまった。
- 感想投稿日 : 2021年5月6日
- 読了日 : 2021年5月6日
- 本棚登録日 : 2021年5月6日
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