境界の発生 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社 (2002年6月10日発売)
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本棚登録 : 417
感想 : 12
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 1989(平成元)年に単行本として刊行。
『異人論序説』の赤坂憲雄さんの、これも初期の本。別々に発表された論文・エッセイを収録。
 この方の文体はなにか重苦しいような主体を感じさせる。その上、高度に学術的な記述も多いので、人によってはとっつきにくいだろう。私は、この文体は好きだし、「異人」「境界」といったテーマも目下真剣に考えているあたりのものだ。
 本書の中では巻頭に入っている「境界/生と死の風景をあるく」というエッセイの、序文の部分で、現代を「あらゆる境界が喪われてゆく時代」と書いているのが、私としてはとても気になり、かなり考えこまされてしまった。
 赤坂さんの考えていることとは少し違うだろうが、こんにち、科学的あるいは功利的な「クールな明晰性」によって世界がのっぺりとし、神話的な強力な磁場はもはや無く、共同体もほとんど解体して、ただ情報と経済行動だけが灰色の空間にひたすら浮かんでいるようなこのエントロピーの高い世界は、確かに異界と「境界」を喪っているのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人類学・民俗学
感想投稿日 : 2023年11月11日
読了日 : 2023年11月10日
本棚登録日 : 2023年11月10日

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