幻の漂泊民・サンカ

著者 :
  • 文藝春秋 (2001年11月1日発売)
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感想 : 10
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民俗学の本として、なかなかの好著ではないだろうか。きちんと学者らしく綿密に調べ上げて書いており、信頼性がある。
サンカは関西辺りから中国地方にかけて、明治から1950年代くらいまでは確かに存在していたが、1960年代から1970年代にかけて消滅してしまったらしい。
山に住み、自然採集で生きて、ときおりふもとの農村に下り、採集物や木などから手仕事で作った品物で交易する。
柳田國男の説では、サンカは先住民族の末裔とのことだが、近世以前に史料が残されていないことから、著者のいうように、江戸時代後期ぐらいから現れた、と見る方が妥当だろう。
飢饉などさまざまな原因から農村を離れ、山に隠れて生活を始めた彼らは、国が近代化し、マックス・ウェーバーの言う「官僚制化」が一挙に進んだ頃は「戸籍に載っていない者」として弾圧され、官僚制化が完成した1960年代あたりに消滅したようだ。そのときから、国民は官僚制システムに完全に管理されるようになったわけだ。
貧窮し山に逃げ込んだ者、というと今で言う「ホームレス」に近いものだろう。ただ、現在の都市部は山に逃げ込めないので、そこらで無為にすごしているだけだ。
とはいえサンカは山で暮らす技術を持っていたわけだし、家族同伴で動いていたようだ。
国家により山から閉め出された彼らは平地の村落に押し込まれ、広島あたりのいわゆる「被差別部落」の中に組み込まれてしまったらしい。
北海道に住んでいるとサンカも被差別部落も、全く知らない、縁の遠い話なのだが、このように庶民の姿の一部を客観的かつ生き生きと描き出した「民俗学」の書物には、なぜかとても引き込まれるものがある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人類学・民俗学
感想投稿日 : 2012年5月6日
読了日 : 2012年5月6日
本棚登録日 : 2012年5月6日

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