反解釈 (ちくま学芸文庫 ソ 1-1)

  • 筑摩書房 (1996年3月7日発売)
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感想 : 25
5

ソンタグは以前『写真論』を読んで全然面白くなかったのだが、この本はとても良かった。極めて平易で何の抵抗もなくすらすらと読めて、適度に知的刺激が織り込まれ、その思想内容も実にわかりやすいため、文学的なおもむきのある批評/エッセイという感じだった。
出版は1966年、音楽でも美術でも熱っぽい「前衛」の嵐が吹き荒れ、文学においても、現代詩に後れを取ったヌーヴォー・ロマンという実験的小説群がフランスに花開いた。まさにそのような時代の空気を、この書物は体現している。
(意味)内容よりは形式(様式)。しかもその形式というのは、音楽で言えば対位法とかソナタ形式というような理知的工作をアナライズするというより、シニフィアン化した芸術要素を「感覚的・官能的に」感受することが求められている。
このへんは1950年代以降の「現代芸術」ではもう常識となってしまっているだ、ソンタグの文章は縦横自在で、型にはまって窮屈になることはない。
彼女のクロード・レヴィ=ストロースやアントナン・アルトーへの理解の仕方は実にもっともで、共感できる。カミュについての分析にはなるほどと思わせられる。
映画についても論じられており、小津安二郎はソンタグにとっても現代芸術としての映画の、世界トップクラスに位置するもののようだ。他にも市川崑や岡本喜八の名も出てくるし、「美女と液体人間」のようなB級、いやC級の日本特撮映画まで挙げられてくるというのは、当時アメリカで、日本の映画はかなり上映されていたのだろうか? それとも、彼女が日本映画に興味をもって見漁ったということだろうか?
芸術映画に関しては、当然ゴダール、フェリーニ、アントニオーニ、アラン・レネといった監督がやはり高評価である。が、さらに、ロベール・ブレッソンというマイナーな(?)監督が賞賛されている。私はまだ彼の映画はひとつしか見ていない。
見方によっては、この書物からあふれ出してくる言説群は、今となっては過去のものかもしれないが、しかし、現在もなお、この時代からかなり遠い地点まで到達できたとも思えない。
芸術・文学が21世紀にどこに到達したという明確な言説がいまだにないというのは、時代があまりにも混沌としているからだろうか?
最も新しい時代の「反解釈」を読んでみたいものだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学・思想
感想投稿日 : 2014年5月25日
読了日 : 2014年5月24日
本棚登録日 : 2014年5月24日

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