一般の警察が法律に違反した者を取り締まるのに対し、公安警察は国家に反対する人々を取り締まる、戦前の特高警察をルーツに持つ組織だ。本書ではその成り立ちから現在の組織構成と規模、主な活動内容などを解説している。

 特高はGHQによって解体されたが、ほとんど間を置かずに公安と名を変えて復活した。法律を守ることより国家を守ることを優先し、そのためには多少の非合法活動も辞さない彼らは、旧共産圏の秘密警察に近い。日本の公安警察も活動内容は大半が秘密にされている。

 彼らが純粋に国家の安寧を願うのであれば良いだろう。だが現実はそう甘くない。秘密に守られた組織は確実に腐敗するし、平和によって存在意義が揺らげば組織防衛のために敵を作り出そうとする。古典的には共産党を危険団体と言い張ることによって予算を獲得しているし、市民団体や左派ジャーナリストも標的にされている。

 彼らのような存在が全く無意味だとは言わないが、必要以上に権力を持たせることは危険でもある。彼らが国民を監視するのと同程度には、彼ら自身が監視されるべきだろう。

2023年1月25日

読書状況 読み終わった [2023年1月24日]

 現代の国際物流はコンテナが支えていると言っても過言ではない。多種多様な貨物がどれも同じ寸法形状の直方体の鉄箱に収められて効率的に運ばれる。だがコンテナが登場する以前の港では、様々な荷物を主に人力で船に積み込んだり船から降ろしたりしていた。そのため、貨物輸送の時間と費用の大半が港での作業にかかっていたという。

 本書はそういう昔ながらの輸送方法からどうやってコンテナ輸送が主流になったのか、数多くの課題を誰がどうやってクリアして今の形になったのか、その歴史を語っている。

 規格の揃ったコンテナを使えば効率よく運べるというアイデアはかなり古くからあったようだが、人力作業からコンテナへの移行はそう簡単ではなかった。なぜなら、コンテナの利便性を活かすためには、船の形状や港の設備はもちろん、陸上を運ぶトラックや鉄道に至るまで、輸送の最初から最後までがコンテナ用に最適化されている必要があるからだ。人力作業を前提に作られた市場にいきなりコンテナを持ち込んでも役に立たない。

 アイデアを実現しようとした人々は、コンテナの登場によって職を奪われる港湾労働者の反対や妨害を受けたり、コンテナ用に船や港を改修するための多額の投資が回収できるかという問題に悩まされたり、各国の古い法律や政策を変えるべく難しい交渉を乗り越えたりしてきた。もちろん一人ではなく、多くの実業家や企業や自治体がそこに加わった。

 イノベーションというのは、それが完成した後で見ると当たり前の存在になっているものだ。しかし本書のドラマを読むと、「それが無かった時代」から「それがある時代」への移行は一筋縄では行かないということがよく分かる。コンテナの普及には約半世紀の時間がかかった。次は何がどれだけかかって変わるだろうか。

2022年12月27日

読書状況 読み終わった [2022年11月26日]

 戦争中の国家は国際社会に対して自国の正義を主張し、マスコミは国民の戦意を高揚させるように宣伝する。これらはいずれもプロパガンダと呼ばれるが、著者はこれを10種類に分類している。法則というより、この程度の数にパターン化されているという意味だろう。

 どのようなパターンかは各章のタイトルで示されている。それぞれ具体的な事例が紹介されているが、古くは第一次世界大戦の頃から本書が書かれた2001年の直前にあった湾岸戦争まで、対象となる戦争は幅広い。

第1章「われわれは戦争をしたくはない」
第2章「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
第3章「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
第4章「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」
第5章「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
第6章「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
第7章「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
第8章「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
第9章「われわれの大義は神聖なものである」
第10章「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」

 今まさに起きているロシアとウクライナの戦争においても、両国が積極的に発信している情報はこれらに当てはまるものがほとんどだ。同時にこれらを網羅しているようにも感じる。20年前に書かれた本書の指摘が今もまったく色褪せていないことがわかる。

 侵攻したロシア側の主張は自分勝手なプロパガンダとして国際社会から白眼視されているが、ウクライナ側の主張にもプロパガンダ的な要素が多いことは忘れるべきではないだろう。当事者の言葉は真摯に聞きながらも鵜呑みにはせず、戦争が終わってからきちんと検証されることが望ましい。

2022年11月20日

読書状況 読み終わった [2022年10月10日]

 孤独死に伴う特殊清掃や遺品整理の話はすでに何冊か読んだが、本書でも過酷で胸の痛い事例が紹介されている。明日は我が身というか、どんな準備と対策をとっておくべきか考えながら読んだ。後半ではいくつかの業者や自治体が取り組んでいるサービスが紹介されているので参考にしたい。

 紹介された事例はいずれもゴミ屋敷化していたものだが、きちんと整理整頓されて早期に発見されれば専門業者が呼ばれる必要もないので、そういう事例がどのくらいあるのか気になった。できればそうなりたい。

 本書では、亡くなった方だけでなく特殊清掃や遺品整理を仕事に選んだ人達も詳しく紹介されている。あまり積極的に選ぶ人はいなさそうな仕事なので、そこに至った彼らの人生もまた興味深い。これから需要は増える一方だと思うが、本書で紹介されたような良心的な業者が多くなってほしい。

2022年9月26日

読書状況 読み終わった [2022年9月17日]

 『真説 日本左翼史』の続編。前作では共産党と社会党を中心に政治家の関係や活動の流れを紹介していたが、本作では新左翼や学生運動を中心にいわゆる過激派の歴史を扱っている。

 共産党が武装闘争から距離を置いたことに不満を持った若者が新左翼と呼ばれる様々な団体を作ったものの、しょせんは「子供の政治」であり自衛隊どころか警察にも歯が立たない。行動が行き詰まるなかで思想や主張だけがどんどん過激になっていく。次第に攻撃の矛先は他のセクトへ向かって内ゲバとなり、さらには仲間内にも向かって山岳ベースでの殺人とあさま山荘事件を引き起こす。

 同じ年にはテルアビブで空港乱射事件もあり、この頃から世間の支持は完全に失われてしまう。これらの凄惨な事件の数々は、多くの日本人に政治活動への忌避感を強く植え付けた。それによって最も恩恵を受けたのは自民党を始めとする既存の権力者だろう。公安は単に彼らを逮捕するのではなく、あえて事件を起こさせて世間から浮かせたという話も出てくる。文字通り権力は一枚上手だったのだ。

 社会主義国がことごとく独裁国家になってしまったように、学生運動もことごとく過激化していった。その思想自体に独裁や過激化を推奨する要素はないように見えるのに、これだけ同じパターンが繰り返されるのはやはり何らかの因果関係があるのだろう。

 本書の終盤で指摘されているように、同じような主張を持つ人々の集まりではより極端な説を唱える者が偉いとみなされ、過激になる傾向がある。今風に言えばエコーチャンバーだろうか。左翼に限らず「同志」の集まりは常にその危険を持っており、自分たちがそうなっていないか常に自問する必要があると感じた

2022年9月19日

読書状況 読み終わった [2022年9月17日]

 半導体を制するものが今後の世界を制する。最先端チップを作ることができる企業は限られており、サプライチェーンの各所に独占や寡占が存在する。その中にあって、各国はどのような動きを示しているか。米国、台湾、中国、欧州、そして日本の現状と今後の戦略について紹介している。2030年を近い将来として扱っている上、時事的な話題が多いので数年後には陳腐化してしまうだろうが、これまでの歴史と現状をおおまかに把握することができた。

 別の本で軽く読んだことがあるが、5ナノや3ナノといった最先端の半導体チップを作る技術は一般人の想像を絶するもので、機密が多い以上に難解すぎて、我々が詳細を理解するのは困難だ。しかし技術を持つ企業の深謀遠慮や地政学的リスクを制御しようとする政府の思惑が絡み合うドラマとして興味深かった。面白いと言っている場合ではないかもしれないが。

 日本については残念な面が多い。かつてはこの分野でトップの座を奪い合ったこともあるのに、いまやかなり存在感が薄くなっている。本書後半ではそれでも日本の技術が強い部分が残っていることを示しているものの、それを国家戦略として生かすような動きがどれだけあるか疑問だ。ただ、この分野の勢力分布はめまぐるしく変化するので、2030年にどうなっているかは本当に予想できない。期待と不安が入り交じる読後感だった。

2022年8月18日

読書状況 読み終わった [2022年8月16日]

 日本抗加齢医学会の理事を務め、長年老人医療に携わってきた白澤医師による老人論。90歳以上になってなお元気だった長寿者の実例を紹介しつつ、健康で長生きするにはどうすべきかを説明している。ただ、中にはそれほどしっかりしたエビデンスに基づいているわけでもない著者の所感もあるので、おおまかなイメージとして捉えるべきだろう。

 長寿のために気をつけるべきこととして列挙されている内容は特に目新しいものではない。生活習慣病を予防するため控えめな食事と継続的な運動を心がけること。生涯打ち込める趣味や仕事を持って最後まで活動し続けること。様々な世代の人と交流し常に気持ちを若く保つことなどだ。

 私も50歳になったので病気予防については色々やりだしているが、退職後の趣味活動については今のところ心許ない。海外駐在になってから特に趣味が減ってしまったので、日本に戻ったら新しいことにチャレンジしようと思う。

2022年8月8日

読書状況 読み終わった [2022年8月7日]

 20世紀が終わる頃、冷戦が終結して専制国家は激減し、差別は悪いことだという価値観が定着し、マイノリティの権利も尊重されるようになりつつあった。それはリベラルの勝利のように見えた。しかし21世紀はテロで始まり、東西対立とは別の対立が始まった。近年ではリベラルに対する反動が強まっている。どうしてこうなったのか。世界は平和で幸福になるはずではなかったのか。

 本書はそんな疑問を解消してくれた気がする。もちろん本書に書かれていることはひとつの見方であって、他の解釈もあるだろうが、現時点では非常に説得力がある。

 個人の行動の自由を際限なく認めれば弱肉強食の世界になり、平等や公正は失われる。そのため本質的にはリベラリズムと民主主義は相性が悪いはずだったが、全体主義(ファシズムや共産主義)への対抗として両者が結びついたリベラル・デモクラシーが生まれた。この頃の国家のあり方を著者は「共同体・権力・争点」の三位一体と呼んでいる。

 しかしリベラル・デモクラシーが勝利すると、存在意義を失って三位一体は崩壊する。経済的にある程度豊かになって飢えることがなくなると、階級や組織に基づいた政治活動が個人を基礎とする運動に変わった。68年革命と呼ばれる転換が訪れ、個人の承認欲求やアイデンティティを重視した政治が求められ、自由が称揚された。

 リベラリズムは直訳すれば自由主義だ。政治的自由や経済的自由など様々な自由があり、著者は5つに分類している。しかし問題は、自由な社会は自己責任の社会でもあるという点だった。自分で選んだ結果は自分で負わなくてはならない。それは、能力や財産をたくさん持っている強者にとっては望ましい社会だが、弱者にとっては辛いのだ。それが宗教の復権や権威主義の台頭を招いたのだという。

 なるほどと思うと共に、じゃあどうしたらいいのかという諦観が湧く。おそらく当分は今のような世界が続くだろう。誰もが幸せになれる社会を作ろうとしても、そもそも幸せの条件がバラバラなのではどうしようもないだろう。納得と同時に残念さに襲われた。

2022年8月3日

読書状況 読み終わった [2022年7月29日]

 株価の大暴落や国家の財政破綻などの金融危機は過去何度も起こっている。本書は過去100年に起こった9回の危機について説明しているが、原因はそれぞれ違う。危機が起こるたびに再発を防止するためシステム自体が修正され、しばらくすると別の原因で危機が起こるという繰り返しだ。これはそのまま、金融システムが現在の形になるまでの歴史だとも言える。そして今後も危機は起こり、金融システムは修正されるだろう。

 金融システムは経済活動という人間の営みに関する仕組みとルールであるから、工学のように目的に即した最適解が求められるものではない。そこには商道徳とか倫理的な感情が入り込む。無理な政策を続けた国家を他国が救うべきなのか、金融工学で暴利を貪った銀行を破綻から救済するの税金を使うべきなのか、といった問題だ。

 当然それは人により国により答えが様々だ。しかし経済は宗教的信仰と違って全員が参加する取引の集合なのだから、「うちはうち、よそはよそ」という訳にはいかない。話し合って共同で道を見つけなくてはならない。現在はとんでもなく多くの国際組織や会議の場が設けられているが、それは今後も続くだろう。

 本書が発行されたのは2022年1月、新型コロナのパンデミックによる経済への影響がやや落ち着いてきた時点だ。コロナショックが金融システムの大幅な修正を迫るようなものかという点について著者は否定的だが、その後米国のインフレや円安がすさまじくなっているので、どうなるかはまだわからないと思う。いずれにせよ、またそのうち危機は起こるのだ。

2022年7月3日

読書状況 読み終わった [2022年7月3日]

 三つ以上の天体の軌道を数学的に記述する問である三体問題に関する解説。中国のSF小説『三体』で有名になったような記述があったが、あの小説を読むような人なら元々知ってたのではないかと思う程度には有名な問題だろう。運動方程式の意味、方程式の解とは何かといった基礎的な解説から始まって、最終的には現在進行中の宇宙望遠鏡による超精密な観測にまで及ぶ。

 本書により、自分が色々と勘違いしていたことがわかった。まず三体問題が解けないのは既存の方法に寄った場合の話であり、五次方程式のように解が存在しないことが立証されているわけではないこと。ラグランジュ点のようにいくつかの特殊解は発見されている。だから未解決問題なのだ。

 そして相対性理論の影響まで含めれば二体問題でも解けないこと。古典力学で解けた結果が実際の天体の観測結果と一致しているように見えるのは、相対論の影響が従来の観測機器では検出できないほど小さいからであり、そのズレが検出できるほど高精度な観察が行われれば相対論の検証になる。そしてそのような挑戦がいままさに進められている。

 数学的な問題かと思っていた三体問題だが、その出発点は天文学であり、あくまでも実在する天体を記述するためのものだ。理論と観測がまるで切磋琢磨するかのように発展して精度を上げていく様子はわくわくする。

2022年6月22日

読書状況 読み終わった [2022年6月21日]

 ミャンマーで2020年11月に行われた総選挙では、民主派のNLDが改選議席の8割以上を獲得した。しかし国軍はこの結果を認めず、翌年2月にクーデターを起こして政権を奪った。国民の多くがこれに反発したが武力で抑え込み、デモ隊に発砲するなどして多数の死傷者が出ている。本書は2013年からミャンマーに在住して日本人向け情報誌『MYANMAR JAPON 』を発行している著者がこれまでの経緯と状況を伝えている。なお本書の発行は2021年7月だが、それから1年近く経つ今もまだまだ現在進行系だ。

 著者の主観が混じっているかもしれないが、軍部のやり方があまりにひどくて読み進めるのが辛いほどだった。なぜ彼らが自国民にそこまで暴虐に振る舞うのか理解に苦しむが、やはり多くの利権が絡んでいるようだ。ノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー氏の政治手腕についてはロヒンギャ問題への対応などもあって評価が分かれているが、国民の支持はゆるぎない。

 日本は戦時中から歴史的にミャンマー(ビルマ)軍と繋がりがあり、本来ならもっと影響力を行使できるはずだが、今の日本政府は静観すると言って何もしていない。経済的な損得勘定だけでなくもっと人道的にやるべきことをやってもらいたい。また中国やロシアが軍政を支持している点も懸念事項だが、彼らはあくまで自国の利益だけを考えて行動しているので、寝返らせる方法はあると思う。

 ミャンマーの憲法は軍政だった2008年に改正され、政府が国軍を掌握できない上にクーデターが合法化されている。憲法改正には議会の4分の3以上の賛成が必要だが、議席の4分の1が最初から国軍に割り当てられているため、事実上国軍に都合の悪い憲法改正が不可能になっている。

 つまり、いくら選挙で民主派が勝っても国軍がいつでも“合法的に”軍政に戻せる仕組みであり、真の民主化のためには内戦が避けられないだろう。すでにその兆候が出始めている。内戦になれば難民が多数発生するが、その時に日本はどうするのか。無関心ではいられない。

2022年6月9日

読書状況 読み終わった [2022年6月8日]

 私は今年で50歳になり、定年まで残り10年になるので老後のお金のことを考え始めた。長く海外駐在員をしているので預金はそれなりに増えたが、海外居住者でいる間は投資などを実行するのが難しい。そこでまずはしっかりお金の勉強をしておくことにした。

 投資の参考書としては『ウォール街のランダムウォーカー』と『敗者のゲーム』が有名だが、その2冊の著者が共著で初心者向けに重要ポイントだけをまとめたのが本書だという。実際、思ったよりかなり薄くて、あっという間に読み終えてしまった。要点は以下の通りだ。

 1章は節約の勧め。カードローンは絶対使うな。2章はインデックス・ファンドの勧め。市場全体の動きが最も賢い。3章は分散投資とリバランスの勧め。資産種別や時間的にも分散せよ。 4章は大きな失敗を避ける心得。未来は予測できないものであり、予測しようとしないことが大事。5章は上記のまとめと具体的な指針(ただしアメリカ人向け)。6章はリーマンショック後に第2版で追加された章で、暴落があっても原則は変わらないことの検証。

 現在の株式市場は大部分が機関投資家による売買であり、彼らは24時間365日必死になって情報収集と投資判断をしている。市場における「現状」は彼らの判断の平均であり、これを越える“賢い”判断を継続的に下すことはまず不可能だ。これが、インデックス・ファンドを常に上回る結果を出せるファンドマネジャーがいない理由だとされる。もっともだと思う。

 証券会社の営業マンに対する評価が極めて悪いのは面白い。無料のアドバイスを受ければ高い商品を買わされることになるので税理士やフィナンシャル・アドバイザーなど有料の専門家に相談した方がいいと言うが、著者ら自身がそういう専門家だという点は差し引いて理解するべきだろう。

2022年5月26日

読書状況 読み終わった [2022年5月26日]

 東日本大震災で大きく損傷し水素爆発を起こした福島第一原子力発電所は、修復は不可能であり全ての原子炉が廃炉されることになった。しかし炉内は人間が入れないほどの高放射線領域であり、大量に発生する汚染水の処理も大きな問題を抱え、完全な廃炉までには何十年もかかると予想されている。本書はその何十年もかかる作業を実際に行なっている作業員たちに焦点を当て、多くのインタビューから現場の実情に迫る。

 被災直後の緊迫した状況下で命懸けで奮闘した人々は英雄のように扱われた。しかし対応が長期化するにつれて世間の関心は薄れ、作業員たちの扱いは軽くなっていく。彼らの大半は東電社員のような安定した身分ではなく、発生する仕事に応じて集められた期間工のような立場だ。定められた被曝線量の上限に達すれば現場を去らねばならず、危険手当が出るとは言っても不安定であり、生活の不安を抱え葛藤しながら働いている。

 工事の日程が政治の都合で決められたり多重下請けの構図で中抜きがひどかったりして、作業員のモチベーションが削られる。また、線量上限に達した作業員が離職することで現場の熟練度が低下したり、徐々に減っていく仕事を取るために安値で受注した業者が経験の浅い下請けを使ったりして現場の危険度が上がる。

 そして作業員と家族の関係も大切だ。原発近辺に子供は住ませられないため家族と離れて暮らしていたり、反対する家族を説得して使命感から原発で働いているような人も多い。それなのに線量が上限に達すればあっけなく解雇され、なかば使い捨てにされてしまう。高線量下で働いた後に病気になっても、普通の労災しか救済策はない。そんな立場の作業員たちの静かな怒りと悲しみが伝わってくるドキュメンタリーだった。

 制度を決めている人たちも悪気があるわけではないだろうが、事故が起きないことを前提に組み立てられた仕組みは未曾有の事態に対応できていない。まだ日本が原発を使い続けるのであれば、安全神話にしがみつくのではなく最悪の事態を想定した準備が必要不可欠だろう。

2022年5月24日

読書状況 読み終わった [2022年5月24日]

 『全体主義の起源』で有名なハンナ・アーレントの伝記や著作をもとに、全体主義とはどんなもので、どんな背景から生まれ、何故広まったかを検証する。アーレントの著作はかなり難解なので多くの解説書が出ているが、本書は単にその主張をなぞるだけではなく、現代の世界や日本の状況にも当てはめる形で理解を深めている。

 アーレントはナチスから逃れてアメリカに亡命したユダヤ人であるため、まずはナチスのユダヤ人政策が掘り下げられる。フランスのドレフュス事件に現れるように、反ユダヤ主義はナチスが始めたわけではなくヨーロッパに以前から存在したもので、ナチスはそれを利用したに過ぎない。

 では何故ヨーロッパに反ユダヤ主義が生まれたのかというと、国民意識と関係している。国王と家臣と領民からなる従来の国家と異なり、国民国家は国民の同質性を基盤としている。同質性が存在するには同質でないもの、つまり「敵」を必要とする。ユダヤ人は社会の敵として、自分たちの社会に問題があった時に責任をなすりつける相手として格好の存在だった。

 全体主義運動は大衆運動だとアーレントは言う。ナチスがユダヤ人を排斥したのはユダヤ人を憎んでいたからではなく、多数派のドイツ人にとってそれが魅力的な方法だったからだ。ユダヤ人が世界を支配しようとしているという世界観は、社会に対する自分たちの責任を回避するのに都合が良い。「大衆」がそういうものを望んだのである。

 著者が何度か指摘するように、同じような大衆心理は現在もしばしば現れる。日本でも時々「本当の日本人」などと言う表現が出てくる。近年も「純ジャパ」なる言葉が物議を醸した。「本当の日本人」がいるなら「本当ではない日本人」がいることになる。この思想から異分子の排斥まではほんのわずかな距離だ。

 全体主義やファシズムの代名詞ともなったナチスはヒトラーという独裁者とセットで語られるが、全体主義の本質は独裁でも恐怖支配でもない。多数派が安直な安心感を得るために少数派を排斥することであり、それを一般大衆が支持することだ。つまり全体主義は民主主義からこそ生まれてくる。現代の民主主義国に生きる私たちには、自分たちの社会に全体主義の萌芽が出てきていないか、常に注意を払う必要と責任があると思う。

2022年5月23日

読書状況 読み終わった [2022年5月21日]

 不況時の経済政策が国民の健康にどのような影響を及ぼすかという、公衆衛生学の視点から政治経済を分析したやや珍しい一冊。社会問題は研究室で実験することができない分野だが、実際に起こった様々なケースを比較する「自然実験」と呼ばれる手法が用いられている。

 2008年から発生したリーマンショックが世界中の国々を激しい不況に落とした後、いくつかの国は深刻な財政危機に陥った。そういう場合に最後の貸し手となるのがIMFだが、IMFは多くの場合、債務国に対して緊縮財政を要求する。

 いくつかの国はIMFの要求に従って予算を削減した。その中には医療補助や住宅補助など国民の健康に直結する支出も含まれる。その結果どうなったか。医療補助を削減したら重症になるまで病院に行かない人が増えて結局治療費が高く付く。住宅を手放す人が増えればうつ病が増えて就業率が下がり税収が減る。逆にIMFの要求を拒否して支出を継続した国では順調に景気が回復する事例が確認されたという。

 医療と教育は政府支出乗数がおよそ3、つまり1ドル投入することでGDPが3ドル増えるという効果があると著者らは説く。これに対してIMFは0.5程度とみなし、予算を削ったほうが良いと主張していた。結果は著者らの主張どおりだったという(IMF側の資料も確認が必要だが)。

 以前からIMFの言うことを聞くと経済が破壊されるという意見はしばしば目にしたが、本書はそれをデータで裏付けている。それでもなおIMFは緊縮路線を捨てていないというのが解せない。日本がIMFの支援を求めるような事態になった時には、断固として拒絶してほしいと思うが、日本の政治家にそれができるかどうかは疑問だ。

2022年5月9日

読書状況 読み終わった [2022年5月5日]

 著者は1970年代からフランスに住んでいる日本出身の言語学者。フランスから何度もトルコ各地を訪問してクルド語を含む少数民族言語の研究を行った。本書は言語学の解説ではなく、トルコ国内で研究活動を行った時の出来事をまとめたもので、国内にトルコ語以外の言語が存在することを認めない政府とのきわどいやりとりがテーマとなっている。

 多民族国家における民族政策は色々だ。マレーシアのように多様性を尊重する場合もあれば、中国のように同化を強要する場合もある。本書執筆当時のトルコは明らかに後者であり、民族はともかく言語においては少数派が存在すること自体を頑なに否定する方針を取っていたようだ。中国以上に厳しい同化政策だと言える。

 著者は純粋に学術的興味から研究を行っていたが、トルコ政府側にとってそれは政治的意図と切り離せないテーマだった。そのため彼の存在が明らかになると、警察はもちろん政府関係者からも監視や妨害を受ける。多少は研究内容に理解を示す人もいれば、トルコ政府の公式見解を盲信して著者を罵る人もいる。プロパガンダの賜物だろう。

 文面からは傲慢で不見識なトルコ政府に対する怒りと、少数民族に対する愛着が伝わってくる。文章で読むだけでもウンザリするのだから、本人はどれほどだったか。また、多種多様な言語をすぐに習得して会話できるようになったり、当事者でも知らないような地域的、歴史的な分析ができる著者の知性は私の想像を絶するものがある。相応の努力の賜物であろうが、こういう人の目に映る世界はどのような場所だろうか。

 本書は1991年に出版されたもので、もう30年にもなる。現在ではクルド語の放送局もあるようなので存在を認めないというわけではないだろうが、民族政策におけるクルド人の扱いは変わっていないと思われる。よその国の政治に口出しする気はないが、国民を幸福にするのが政府の仕事だという原点に立った政策が行われることを望みたい。

2022年4月21日

読書状況 読み終わった [2022年4月20日]

 著者はグーグル勤務経験のあるデータサイエンティスト。少し前にもてはやされた(そして最近ちょっと聞かなくなっている)ビッグデータ分析を紹介している。特にグーグル検索のデータを利用した興味深い事例紹介が中心で、技術的な説明ではない。一般向けにビッグデータ分析の面白さを伝える本としてちょうどいいだろう。

 従来、何かについて人々の意識調査を行う場合はアンケート形式で情報を集めるのが普通だった。しかしタイトルのように人々は嘘をつく。特にセックスや人種差別などがテーマの場合は、正直に答えなかったり見栄を張ったりする。しかしパソコンやスマホに検索ワードを入力する時は本音が出る。しかもアンケート等よりはるかに膨大なデータが集まるため、従来の方法ではわからなかった傾向や関連性を見出すことができる。

 だが重要なのはむしろ後半で語られる、ビッグデータ分析では不可能なこと、やってはいけないことの説明だろう。特に「次元の呪い」という概念は初耳だった。説明される事象よりずっと多くの説明変数を調べると、統計的に有意と言えるほど相関のある変数が偶然に発生してしまう現象だ。株式相場の予測で実際にこの呪いにはまって失敗した事例が紹介されているが、これはビッグデータならではの誤謬と言えるだろう。

 最近あまり話題にならなくなったのは、AIやVRなど新しい技術が流行し始めたからというのと、普通に活用される段階になったため話題性がなくなったというのがあるだろう。私の周囲ではあまり使われていないが、多くの企業で事業を検討する際に参考にされているのではないかと思う。置いていかれない程度に勉強しておきたい。

2022年4月14日

読書状況 読み終わった [2022年4月13日]

 医学ではなく生物学としてのウイルス学の本。新型コロナのパンデミック中に出版された本だが、感染症というより遺伝学的な側面からの紹介が中心だ。前半は一般的な解説書でよく見られるウイルスの仕組みと特徴、研究の歴史やワクチンのメカニズムといった内容だが、後半は著者の専門であるレトロウイルスの説明が多くなっている。

 DNAの情報がメッセンジャーRNAによってリボソームに伝えられ、そこでタンパク質が合成されるのが通常の過程だ。しかしレトロウイルスが持っている逆転写酵素は、DNAの情報を書き換えたり書き加えたりする。この機能は遺伝子を傷つける病原体として振る舞う場合もあるが、進化を促す役目も果たしていたことがわかってきた。

 そして近年のゲノム解析の結果、人類の持つDNAのかなりの割合がレトロウイルス遺伝子に由来するものであり、私達の体の機能の重要な部分が彼らの能力のおかげで成立しているのだという。例えば妊娠中の女性の胎内において胎児を異物として免疫が働くことがないのも、ウイルスが持っていた免疫の抑制能力が利用されているとか。

 ウイルスは元々「病気を起こすもの」として発見されたが、実際はもっと根源的なレベルで生物に影響を及ぼしている。地球上の生物全体をひとつのシステムと考えた時に、その中で重要な役目を果たす構成部品と言えるだろう。こういった研究は病気を治すという実用性には乏しいかもしれないが、真理の探究という意味でかなりワクワクする話だと思う。

2022年4月7日

読書状況 読み終わった [2022年4月5日]

(Amazon Audibleを使用)

 数学、物理学、コンピュータ工学など多くの分野で重要な業績を残した天才科学者ジョン・フォン・ノイマンの伝記。天才的才能を物語るエピソードが多すぎて、フィクションの登場人物であればリアリティが感じられなくてボツにされるレベルだ。

 1903年にハンガリーで生まれた彼はナチスが台頭するヨーロッパを逃れてアメリカに渡り、有名なプリンストン高等研究所の教授となった他、若いうちから多くの大学や政府機関で要職についている。本書では彼と出会った数多くの科学者が登場し、その多くが素晴らしい知性の持ち主だが、ノイマンは飛び抜けていた。戦時中は原爆やコンピュータの開発にも貢献している。二十世紀最高の頭脳と呼ばれるのもうなずける。

 しかしタイトルに悪魔とあるように、倫理観の面では模範的ではない。原爆開発に人道面から迷った様子もなく、予防戦争としてソ連への先制攻撃を主張した姿勢には、大きな目的のためなら他人が死んでも構わないという冷酷な面があったことは否定できない。

 常人の理解を超えていたというべきかもしれないが、彼の言う通りにしていたら今はもっと良い世界になっていたかは疑問だ。科学者としては超超一流だったとしても、政治家や軍人にはなってほしくない人物だったと思う。

2022年3月24日

読書状況 読み終わった [2022年3月18日]

 旧ユーゴスラビア連邦が解体した後の1992年、セルビアとボスニア・ヘルツェゴビナの間で紛争が起こった。当時の国際社会は完全に「セルビアが悪」という認識になってセルビアが攻撃されたが、実はその世論は米国企業の巧みなPRで作られたものだった。その舞台裏を伝えた2000年放送のNHKスペシャル「民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕~」の取材をもとに執筆された本。

 セルビアに対して国力や人口で劣るボスニア・ヘルツェゴビナは米国の支援を求めるが、米国には直接の利害関係がない紛争なので、まず世論を動かす必要があった。まだネットのない時代なので、有利な情報を広めるには新聞やテレビなどのメディアで好意的に取り上げられることが何より重要であり、そのためにボスニア・ヘルツェゴビナが契約した米国のPR会社は様々な方法を用いた。

 記者が記事にしやすいようにタイミングを見計らって情報を流したり、インタビューのお膳立てをする。「民族浄化」や「強制収容所」というナチスをイメージさせる単語が効果的に繰り返され、印象的な写真が紙面を飾る。そうして次第に「セルビアが悪」という図式が作られる。セルビア側も有利な情報を広めようとするが失敗し、結果的にボスニア・ヘルツェゴビナ側が世論を味方につけ、ユーゴスラビア連邦(≒セルビア共和国)が国連から追放されるに至った。

 中には、現在であればミスリードと呼ばれそうな情報や、フェイクニュースに近いものもあったようだ。例えば「強制収容所」の存在はかなり怪しい。少なくとも、その言葉からイメージされるアウシュビッツ収容所のような施設があったわけではないようだが、あるに違いないという憶測が拡散されて既成事実化していった(自然にではなくPR企業の戦略によって)。しかも実際はボスニア側も同じような収容所があったことが戦後の調査で明らかになっており、かなり偏っていたことは間違いない。

 PR企業によって国家が悪に仕立て上げられたことに倫理的な問題があるのは間違いないが、あとがきで著者が述べるように、国家がそれを規制することも望ましいとは言えない。明らかな嘘はともかく、事実の取捨選択がどこまで許されるかの線引きは難しい。しかし、良いか悪いか結論が出るのを待つ時間もなく、戦わなければならない状況は既にあるのだから、放っておくことはできない。

 ボスニア紛争から30年経った今、情報戦の主戦場はネットに移っている。ネット上の情報が玉石混交でフェイクも多数あることはすでに誰でも知っているが、どれがフェイクか見分ける手法はまだ十分ではない。「心を揺さぶる一枚の写真」はたくさんあるが、拙速に反応するべきではないだろう。

2022年3月14日

読書状況 読み終わった [2022年3月13日]

 青森県津軽地方は方言が強く残る地域だが、自閉症の子供は津軽弁を話さず共通語を使うという。著者(大学で特別支援教育を教える障害児心理の専門家)の妻(臨床発達心理士で乳幼児健診に長年関わっている)が「自閉症の子供は津軽弁をしゃべらない」と言い出し、それを信じようとしない著者との間でちょっとした夫婦喧嘩になったことが本書執筆のきっかけだという。

 最初著者は「自閉症の子供の話し方にはイントネーションなどに特徴があり、それが津軽弁らしく聞こえないからそう感じるだけだろう」と考える。しかし障害児に関わる多くの関係者にアンケートを取ると、著者の妻以外も同様な印象を持っている場合が多く、さらには津軽地方に限らず方言が強い地方では同様な傾向があることが分かる。

 そこから、方言主流社会の人々がどのように方言と共通語を使い分けているか、子供はどうやって言葉を習得するか、自閉症児が苦手とする「相手の意図の読み取りや働きかけ」を普通の人はどうやって行っているか、等々、関連する現象が掘り下げられていく。こういった研究は実験室の中でデータを集めて分析することができないので、何年もかけてフィールドワークを積み重ねる。その労力はすごいものだと感心した。

 本書の結論を簡単にまとめるなら、自閉症児は周囲の人々よりもメディアから多くの言葉を習得していることと、親しい人とは方言で話すが公的な場面では共通語に変えるといった切り替えができないことが共通語ばかり話す原因と考えられる。おそらく東京で育った自閉症児も同じことが起きているが、方言が少ないため気づかないだけだ。

 読んでいてなんとなく、私自分も自閉症の傾向が多少あるかもしれないと感じた。他者の意図を読み取るのはあまり得意ではないし、本書に紹介された自閉症の人の言ってることがよく分かる気がするのだ。程度の問題かもしれないが。

2022年3月13日

読書状況 読み終わった [2022年3月12日]

 ナイジェリア出身で19歳からアメリカに渡った女性作家による、12作の短編集。ヨーロッパ人の目から見たアフリカの異国情緒ではなく、アフリカ人自身の視点で描かれたアフリカの日常や、アメリカに移住したナイジェリア人女性の暮らしなどが描かれている。

 アメリカの黒人女性が置かれる立場や、ナイジェリアの伝統文化における不平等がしばしば描かれるが、強い口調で非難するわけではない。淡々とした文章と冷めた言葉遣いでありながら、その内側にある熱い感情が伝わってくる。

 アジア人男性としてどのように受け止めればいいか難しい作品だが、あれこれ論評や解釈を入れず、そのまま受け入れるのが一番良いのかと思われる。

2022年3月5日

読書状況 読み終わった [2022年3月4日]

 近世以降に人類が使用してきたエネルギー源の変遷をまとめた力作。副題にある通り薪から原子力や再生可能エネルギーまで順に解説しているが、本書のポイントは「変遷」、つまりあるエネルギー源から別のエネルギー源への交代が繰り返された経緯である。新しいエネルギー源はどうやって開発され、どのように普及していったのか。古いエネルギー源は何が問題で廃れたのか。そういう点に着目している。

 新しいエネルギー源の登場は産業構造や生活様式も大きく変えてきた。改善することもあれば問題を起こすこともある。木々を切って薪にすれば森林が減少するし、石炭は大気を汚染し、ガソリンや天然ガスは温暖化を招いた。問題を解決するために新エネルギーが開発され、また新しい問題が発生した。エネルギーの変遷はそれらの問題との格闘の歴史だ。

 技術的な側面もさることながら、政治やビジネスとしてエネルギー問題に関与した人々のエピソードも豊富に取り上げられており、読み物としても面白かった。立派な人もいれば狡猾な人もいる。いろいろな意味でエネルギーは死活問題であり、綺麗事では済まない。

 最後の何章かは現在進行形の事象を扱っており、私達自身も当事者であるという当然の事実を思い出させられる。原子力や再生可能エネルギーは今後どうなっていくか、どうしていくべきか。今後100億人に達すると言われる人類が生存するために、もっと「良い」エネルギーの開発は必須であり、私達は選択しなくてはならない。

2022年2月17日

読書状況 読み終わった [2022年2月16日]

 50歳まで一度も結婚しなかった人の割合を生涯未婚率と呼ぶ。1970年代まで5%未満で推移していたがその後増加して、2021年には男性25.7%、女性16.4%に達したそうだ。特に男性は4人に1人が結婚しない人生を歩む。なぜ結婚しない人が増えたのかについては、お見合い結婚から恋愛結婚に主流が移ったことや、コンビニや一人暮らし向け住宅の増加などによって独身でも困らなくなったことなどが挙げられる。

 しかし本書はそういった環境の変化だけでなく、実際に独身であり続けている人や結婚した人にインタビューすることで、彼らがどのような意識と背景で人生を選択してきたのか、当事者の心理面から探っている。統計的な分析とは言えないし対象が偏っている気もするが、数字だけでは語れない実情をある程度は明らかにしていると思う。

 結婚という人間関係はどういうものなのか、ずっと独身でいるとはどういうことか、結婚に代わる人間関係はどう構築するか、年老いた後はどうするか、などなど。経済、生活、性愛など各方面から、インタビューの他にキルケゴールや夏目漱石の著作などを引き合いに出して考察している。ただし基本的には著者らの考えを語っているようにも思える。

 結婚をとりまく社会のあり方は大きく変化しているが、人々の意識や価値観はすぐには変わらない。一番の問題は法律や制度を作る人達の価値観が昭和時代から変わっていないという点だろう。すでに過去のものとなった「普通」にいつまで固執し続けるのだろうか。

 最終章では「当事者の独身男性には本書を、自分を見直し、誰と生きればいいのか?どのように生きていけばいいのか?今後の人生を構想するための実用書として使って欲しい。」とあるが、これまでなんとなく思っていたことが文章化されたような内容だったので、その点について本書を読んで特にこれまでと変わることはなかった。

2022年2月5日

読書状況 読み終わった [2022年2月5日]
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