A3

著者 :
  • 集英社インターナショナル (2010年11月26日発売)
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感想 : 69
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★謎解きでは、ない★「A」で荒木・広報副部長を通してオウムの個人を描き、「A2」ではオウムと社会の関係に焦点を当てた、と感じていた。「A3」で著者が明言するように、初めて麻原が対象となった。麻原を軸に、なぜあんな事件が起きたのかを探る。

 確かにオウムの事件は肝心なことが何一つ分からない。麻原が公判の途中でおかしくなっているのなら、「吊るせ」という結論にすっとぶのではなく、いったん落ち着いてから少しでも真相に迫れと主張する。その通りだと思うが、最後の公判だけを見た著者と違い、ずっと裁判を見てきた人は麻原がいずれにせよきちんとした答えを述べることはないと感じているのではないだろうか。もちろん、だからといって刑事訴訟法のルールを曲げてよいわけではない。

 麻原はブラックホールのようなレセプターで、それが好む情報を弟子が無自覚に捏造して伝え、麻原の危機意識が肥大していった。そういう「弟子の暴走」が事件の背景だと著者はまとめる。間違いではないだろうが、「空虚な中心」のような分析は美しすぎる。そう書いた途端に肝心な何かが抜け落ちる。主治医だった中川が言うように、麻原は毎日2時間は修法するように自分の精神世界を信じていた化け物だった。もはや誰にも分からないが、ブラックホール以上のものがあったはずだ。もうひとつ、著者の水俣病へのこだわりは、その有無の検証が困難なことも含め、推測が勝ち過ぎているように思える。現場に行くと確かに圧倒されるが。

【追記】小菅の拘置所の近くに行った。未決拘留者と、刑の執行前という理由で死刑囚が共存するのを外から見るのは、ある種の矛盾に直面し胸のムカツキを覚えた。それ以上に、隣接する立派な公務員住宅は実質的に拘置所と同じだろう。あれはつらい、暮らす人にとっても。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2011年10月7日
本棚登録日 : 2011年10月7日

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