教育現場は困ってる:薄っぺらな大人をつくる実学志向 (平凡社新書)

著者 :
  • 平凡社 (2020年6月15日発売)
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感想 : 28
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Kindleで電子書籍を読んだ。
榎本博明氏の主張は、私の考えに近いことが多い。
したがって、榎本氏の著書は私自身の考えを補強するために読むことが多く、本書もその趣旨で読んだ。
2000年にノーベル賞を受賞したジェームズ・ヘックマンは就学前教育で大事なのは非認知能力であることを明らかにした。
非認知能力とは、
・我慢する力
・動機付ける力
・展望を持つ力
・自分を信じる力
・他者を理解する力
・衝動をコントロールする力
などのことであり、それらは「忍耐力」や「克己心」といった日本の教育で重視されてきたものであると指摘する。
さらに、本書で特筆すべきは、
①アクティブラーニングの否定
②キャリア教育の否定
の2点である。

①アクティブラーニングの否定
勉強の本質は孤独の中で思考するところにあり、わきあいあいと仲間と語り合うところにあるのではない。もちろん、友人との価値的な対話が学習意欲につながったり、コミュニケーション能力の向上につながることはあるだろう。
しかし、勉強をしていなければ、友人との価値的な対話そのものが成り立たない。一方的に話を聞くだけなら、授業を受けるのと同じでありもはやアクティブラーニングではない。
さらに、アクティブかどうか、つまり学習意欲がアクティブかどうかは、精神的な問題であり、友人と語らうかどうかという行動とは無関係である。
教師・講師の一方的な講義であっても精神がアクティブであれば、つまり学習意欲が高ければ、それがアクティブラーニングである。

②キャリア教育の否定
激動の時代に中学生が職業体験をすることに、どれほどの意味があるのか、どれほどの価値があるのか不明である。
キャリア心理学では、
・クランボルツの「計画された偶発性理論」
・ジェラットの「積極的不確実性理論」
・ブライトとプライヤーの「キャリアのカオス理論」
など、不確実性を折り込む必要性が強調されている。
さらに、「好きなことを仕事にしよう」というアプローチを榎本は否定する。好きなことが明確で、その道で生きていくと決められる若者はそれでいい。
しかし、好きなことが分からない若者も少なくない。否、「好きなことがあっても、それが仕事にならない」のが普通だから、「仕事になるような好きなこと」は容易に見つからないものなのだ。
立川志の輔は大学では落語研究会に入っていたが、広告代理店に就職する。しかし、落語への思い止みがたく、30歳のときに立川談志に弟子入りする。
「好きなこと」とはどうしても抑え切れない衝動であり、探して見つかるような代物ではない。
目の前の仕事を一生懸命やって、それが好きになれたらそれで良いのだ。目の前の仕事を一生懸命やっても、他に好きなことが出てきたら、そちらに行ったって構わない。
「好きなことを仕事にすれば苦労少なく人生を送れる」という発想では、好きなことを仕事にすることも、仕事を好きになることも難しいのではないか。
なぜなら、苦労を乗り越える充実が真の「楽しさ」だから。人生の充実とは「成長」のことだから。
人生の幸福は「成長率で決まる」から。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教育
感想投稿日 : 2021年9月20日
読了日 : 2021年9月20日
本棚登録日 : 2021年9月20日

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