「南京事件」を調査せよ (文春文庫)

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  • 文藝春秋 (2017年12月5日発売)
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清水潔氏の本は何冊か読んでいる。氏は調査報道という手法で事件の真相に迫ってきた。氏の文章には裏表がない、偽りがないと信じている。
「南京大虐殺はなかった」という主張がある。他方で中国は、30万人が虐殺されたと主張する。
清水潔氏はこの南京大虐殺にも調査報道の手法で迫る。現地に行く、人に会う、文献の裏を取るなどの調査を重ねてたどり着いた結論は、「南京大虐殺はあった」であった。
虐殺に関わった兵士の日記。複数の日記を照合すると虐殺の事実が浮かび上がってくる。ただし、数は分からない。日本政府は数万から20万人の虐殺があったと言い、中国政府は30万人と言う。数が確定することはないだろう。
しかし、そんなことは問題ではない。何万人であっても大虐殺であることは間違いない。
南京大虐殺はあった。ずらっと並べて射殺し、銃剣で刺した。死体は石油をかけて燃やし、揚子江に流した。極めて残虐であった。
その根底には中国人への蔑視があった。日本は中国人を下に見ていた。そして同様の蔑視が今もあり、清水氏の中にもあることを自覚する。
「中国人はこうだ」、「日本人はこうだ」と国籍をもとに論じるとき、それはナショナリズムを含む。
グローバル化に対するアンチグローバル化。そこで台頭するナショナリズムを見逃してはならないだろう。せめてもの南京大虐殺の教訓として。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年1月31日
読了日 : 2021年1月31日
本棚登録日 : 2021年1月31日

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