閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社 (2017年5月17日発売)
3.72
  • (22)
  • (36)
  • (34)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 337
感想 : 44
2

もう、この手の本を読みすぎて、一体何が正しいのかわからなくなっているが、前作同様どうもスッキリしない読後感だったので、自分としては珍しくメモを取りながら2回読んだ。それでも違和感が残り、全面的に『閉じた地域帝国』なる提案を素直に信じきることができない。
全体的に根拠の提示がない断定、無批判な引用、自説に都合の良いコジツケ、論理の飛躍が散見される。これ程の頭の良い人が考えたことなのだから何か裏付けがあるのだろうとは思うが、丁寧な説明を大胆に省いて勢いだけで論を展開する姿勢は、ある意味読者を説得する意思を放棄しているように見える。これでは科学でなく宗教だ。

幾つか感じた違和感の例。
1)著者が論じる社会構造の転換は、数百年単位のスパンなのに、高々直近十数年の利子率トレンドで議論するのは乱暴ではないか?
2)海の国と陸の国の定義が曖昧。コロンブスやバスコ・ダ・ガマを擁し、その後のイギリス同様新世界から略奪しまくった地中海諸国が陸の国で、大して植民地も持たなかったオランダが海の国? 金融立国が海の国的なら海のないスイスやルクセンブルクも海の国なの?
3)日銀はマイナス金利で無限の徴税権を手に入れたと言うが、マイナス金利の下限は-0.5%とも言っていて、大した権利ではない。自説に都合の良い主張の典型。
4)ヤマト運輸の例も一企業の戦略ミスを以て、資本主義終焉の根拠とするのは乱暴。ヤマトはAmazonにしてやられて独占的地位を上手に活用できなかっただけでは?
5)実物投資空間と言う概念の説明も不親切で、一体何を指しているのか解らない。仮にそんな空間があったとして、本当にそれが消滅したのか根拠が示されない。利子率の低下が実物投資空間の限界の根拠とされているが、実物投資空間の消滅が利子率低下の原因とも言っていて、これでは因果関係の説明になっていない。
6)近代資本主義の原理が『速く、遠く、合理的』だと言うが、それは信頼できる学説なのか?仮にそれが正しいとして、現状の原理が行き詰まったからと言って正反対の方向に進めば成功する根拠は何か? 別のベクトル軸を設定する考えはあり得ないのか?

部分的には説得力のある説もあって、全面的に否定する気にもならないが、とにかく議論が荒くて納得感が得られなかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会時事
感想投稿日 : 2017年12月15日
読了日 : 2017年12月15日
本棚登録日 : 2017年11月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする