『ソバニイルヨ』で大好きになった喜多川泰さんの本を、久しぶりに読む機会に恵まれました。
あとがきより…
この作品は、短編集のように見えて、つながりを持った1つの長編であり、僕たちの人生そのものを表しています。それぞれの人生は、他者の人生と切り離すことができない縁でつながっていて、別々の物語のように見えて、実はそれが1つの長編の物語になっていることを感じてもらいたい。『One World 』というタイトルには、そんな思いが込められています。…
物語の形を取った、啓蒙書という感じの喜多川泰さんの本。この作品も、自分のダメなところをしっかりとついてくれ、その上で気持ちを新たに何かを始めてみようとう気概を与えてくれ、清々しい気持ちになりました。
9編ありましたが、特に印象に残ったのが「夢の国」です。中国から日本に出稼ぎに来ている張さんと、日本人大学生裕樹のお話。
☆張さんは初めて日本に来て、忙しくても笑顔で対応してくれるウェイトレスの姿、日本人全般の常識の高さなどを目の当たりにして感動し、日本が大好きになります。そして、何かから逃げる理由ばかり探して生きているバイト仲間の裕樹に、「日本は夢のような国。好きだから大切にするのではなく、大事にするから好きになる。自分の居場所を大切にする人は、信頼される」と発言します。
バイトからも逃げ、やめていく裕樹に、バイト先の店長からは、「うちの店をやめた後に、お前がどう行動するかでお前の心がわかる。かっこいい男になれよ。」と言われます。
この二人の言葉を契機に、裕樹は変わっていきます。☆
因みに、次の「どうぞ」という短編では、その張さんが日本で経験したことが描かれており、また繋がっていきます。
張さんは日本をとても褒めてくれていますが、日本も段々と変わってきて、張さんを失望させてしまいそうですね…
やりたくない事に対して、理屈をつけて言い訳をして、結局は逃げているだけ…
すみません、私もです…とグサッと心に刺さりました。
他にも気に入った、老人の台詞がありました。
「ホワイトバレンタイン」より…
☆「女房と2人で一生懸命仕事をして、家族を養って、子供たちにも何かを残してやろうと、いろいろ頑張ってきたんですがね、頑張って集めたものなんて何一つ残っていません。一生懸命貯めたお金も、頑張って買った家も、今やもう残っていないんです。ようやく気付いたんですな、残せるものは、集めたものじゃなくて、与えたものだって」☆
素敵な言葉に溢れている一冊でした。
- 感想投稿日 : 2022年4月21日
- 読了日 : 2022年5月15日
- 本棚登録日 : 2021年9月27日
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