原田泰治 野の道を歩く画家 (別冊太陽)

制作 : 別冊太陽編集部 
  • 平凡社 (2010年7月7日発売)
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本棚登録 : 22
感想 : 5
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図書館、新刊コーナーにあった本を数冊無造作に借りた。いつものこと、ランダムに斜め読みする癖がある。

一面を埋め尽くす睡蓮の花が全景の3/4を占めている。その向こうに壁の剥がれた家屋と雲浮かぶ青い空が描かれ、家に向かって歩く麦わら帽子を冠り杖をつくひとりの老人が点景として描き込んである表紙が目に止まった。家に戻り、机の上に積んどく状態にしてあった。一日が雨の今日、座椅子に座り何気なく手に取り広げた。滅多に使う言葉ではないけれど、感動だった。すべての絵に「人の姿」があることに驚いた。ああ、この人は自然を描いているのではなく「人」を描いているのだなと思い至った。どのページを開いても、自然の中に人が、子供が点景として描き込まれてある。この人の自然を、人を視るまなざしの優しさは本物だと思った。30年、ひとつのことに打ち込んだ人の言うことは信用できる。決してぶれることのない豊かなまなざしの底には、若き日に出会った奥さんとの深い愛情物語があるようだ。写真の世界にあって自然を撮る人は星の数ほどいるけれど、その中に必ず人を配置する人は極めて少ない。絵の世界だからこそ出来ることがある。そこに人を点景として入れることがそれだ。人への信頼と期待がなくてはできることではない。画家、原田泰治は自然を描きながら人を描いている。

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感想投稿日 : 2010年9月16日
本棚登録日 : 2010年9月16日

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