なんてほろ苦い…ほろ苦いという言葉じゃ足りないな。痛烈な経験をした気がする。
主人公の守屋と同じ、異世界への憧れはわたしも持っていて、それを守屋自身が客観的に自己満足と批評し、友人たちが「手の届く範囲の外に関わるのは嘘」「あなたとても幸福そうね」と容赦ない言葉をかけるのは、かなり痛いところをつかれた感じがした。
異世界に憧れることなく、与えられたコミュニティの中で暮らしていくと決めている文原が、自分の性質がこうだとしっかり持っているのも主人公の対比で、そんな文原に対して共感はできないし羨ましいと思うこともないけど、ジタバタしている自分が恥ずかしくなる…本当に守屋の感情を追体験している感覚になる。
自分が異世界に憧れるのはなぜか?観光のようにちょっとのぞければ満足なのか?自分が持つ感情を分析してみたくなる。
異世界への憧れを、マーヤの死でばっさり傷を入れたのもなんだか…本当にすごいなと思った。異世界に関わるということ、その残酷な面を見せつけられた。
だからと言って憧れを持つことを否定しているわけではないし、これは高校生を主人公にした小説だから、この苦さを描きたかったことはわかる。
じゃあこの先どうするか?というのは守屋と読者自身が考えなければならないのだろうな…
改めてタイトルを見返してみると、なんか皮肉のような…守屋の世界に現れたマーヤを妖精と表すことが、やっぱり守屋の経験を遠いところから揶揄しているような、そんな印象を受ける。
わたしが読んだのは単行本版で、文庫の方はマーヤ視点の話もあるらしいので、ぜひ読んでみたい。
古典部シリーズもそうだけど、米澤穂信先生が書く高校生は、小難しいことをたくさん知っていて、考えていて、知的好奇心をくすぐられる。
- 感想投稿日 : 2023年12月27日
- 読了日 : 2023年12月27日
- 本棚登録日 : 2023年12月27日
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