ブラームスはお好き (新潮文庫)

  • 新潮社 (1961年5月12日発売)
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本棚登録 : 1668
感想 : 136
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 美貌で金もある夫との生活を捨て、自らの幸せのために仕事を持ち独立もした39歳の主人公ポールが、ロジェという自分より少し年上の浮気性な恋人と仕事先で出会った若く美しい自分に献身的に尽くしてくれるシモンとの恋愛の中で揺れる物語。
 心情描写が非常に細かくリアルに感じられ、主人公が最後にする一見すると理解が難しいような選択でもすんなりと気持ちに寄り添えたことに驚いた。恋愛を幸せなものだけとして描いておらず、その時の状況やその日の感情によっても微妙に変わるところが表現されていたり、会えていない時に会いたいと思い続けていてもいざ実際に会うときに想像よりも普通な相手に気持ちが少し冷静になってしまったり、自分たちの間では何の問題もない事柄でも周囲の陰口一つで気にかかるようになるとなるところなど自分のことと照らし合わせて非常に親近感が湧いた。全体として、人の孤独や気持ちの身勝手さを描いていて途中で文体が少し変わるところもそういうことを意味しているのかなと思った。
 個人的には、シモンがポールに振り回された時にシモンは少し冷めれしまうがポールは振り回した結果に満足していたという状況からの一連の車の中での描写、お互いにお互いのことを理解する描写とポールの仕事帰りに迎えに来たシモンの会えない時の虚無感や会った瞬間の戸惑いや抱き合った時の解放感を表現した描写がとても好きだった。
 時々ではあるが、冗談や話の受け答えに違和感があるところがあり、フランス語の知識がないことが残念だった。またシモンとロジェが会ってから一気に話が面白くなり、仕方ない部分もあるがそれまでは冗長な印象を受けた。
 作中で「ブラームスはお好き?」という問い掛けが二回それぞれシモンとロジェから行われる。シモンは一途にデートの誘い文句として言い、ロジェはからかうような調子で言った。これは最初から最後まで変わらない二人の性格をよく表していると思う。作中、ポールは自分は幸せになるためにこれまで様々な選択をしてきた、と語るシーンがある。結果だけを見ればポールの状況は物語の最初と最後で変わらないままであった。幸せとは何かと考えさせられた。4.5。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月29日
読了日 : 2023年3月29日
本棚登録日 : 2023年3月29日

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