だからおまえは落ちるんだ、やれ!: 暴走族から予備校教師になったオレの爆言

著者 :
  • ロングセラーズ (2004年1月1日発売)
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本棚登録 : 115
感想 : 24
5

ソウルフルな先輩から勧められた一冊。

私も浪人時代、彼の授業を受けていたが、彼のおかげで…などという美談は語らない。
むしろ浪人中には「この人うるせえな」と思っていたくらいだ。
しかし、今になって読み返すと、彼には共感出来る部分が多い。
本書は、彼の暴走族時代の武勇伝や、ユンケルとコーヒーを混ぜながら勉強し、偏差値を25から86まで上げたなどという勉強話を、面白おかしく紹介しただけのものではない。(そんなこと普通はマネ出来ないんだから、紹介しても無駄なだけな気もする。)
むしろそれをやるに至るまでの彼の心境の変化、思考プロセスを明らかにする本、だと考えるべきだろう。私は現在、受験生ではないため、あえて受験に関する項目には一切触れず、彼の精神性についてレビューしたい。

一貫して彼は、外部からの刺激を「刺激以上」のものとして捉えてはいない。内なる自分に目を向け、原因を自己に帰することが出来る人間なのだだ。
「自分の外に「許せない」ものを作っても、それを倒してやろうとか、超えてやろうというパワーに変えられないヤツも多い。「許せない」という感覚は、最終的に自分に向けられて、初めて自分を動かすパワーになるんじゃないか」という一文に、それが如実に現れている。
彼はこの性質をいかにも天性のように書いてはいるが、これを身につけることがいかに難しいことかは、ある程度苦難を乗り越えてきた人には分かるはずである。内省を幾度となく繰り返してきた結果であろう。

彼はまた、「自己と一つの物事との徹底的な対話」の重要性を説いている。事実彼は、一つの問題に関して二晩も考え明かしたと記述している。
「時間の無駄」という反論は確かに存在するが、「やったことも無いのに無駄かどうか分かるか」と語る彼にはなぜか説得力がある。人間の思考力を限界まで酷使することでしか見えない道があるということを痛感する。

一方で、ここまでは彼の圧倒的な精神力が目立つ描写を拾ってきたが、もちろんネガティブに走るケースもある。
しかし、彼は、ネガティブをポジティブに変えるという、最もシンプルで、最も難しい能力をいかんなく発揮している。
「明日が見えない(終わりが見えない)のは、「やっているやつ」だけが実感できる特権」という発言は、まさに「ネガティブから生まれるポジティブ」を体現していると言わざるを得ない。
自らを追い詰め、内省を繰り返すことで得られる「ネガ‐ポジ混合体」。
これこそ、私の目指すべき世界観である。
「真のネガティブはポジティブに転ずる」とでも言おうか。

彼が真に受験生に対して伝えたかったことはこのことではないかと、最近つくづく思う。
自己との対峙によって初めて見える壁、そしてその壁が自分にとっての糧であると気づけ。
そんなメッセージが聞こえてくる。


最後にひとつだけ名言を紹介しよう。
「時間というものはいかにも客観的なツラをしている」

小学生のころからしっかり勉強していたのにも関わらず浪人してしまった人と、遊び呆けて浪人してしまった人が過ごす「浪人時代の一時間」は大きく異なる、ということを伝えたかった一文だ。

主観的に物事を見よう、自分に何が足りないか、それを満たすためには、どれほどの努力が必要なのか、もう一度考えたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2011年2月16日
読了日 : 2011年2月16日
本棚登録日 : 2011年2月16日

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