この本は動物行動学者の松原始さんの著書というより、表紙でも見られるカラスのボヘーなイラストを描いている雷鳥社の植木ななせさんとの共著と言ってもいい。
松原さんのあとがきでは植木さんが構想し企画したと書いているので、カラス大好き植木さんから松原さんへこのようなアプローチがあったのでは(以下、私の想像による創作)
植木「あのー、カラス研究者の松原先生ですよね?カラスの本を出版しませんか?」
松原「あー、また『カラスを上手に駆除する方法』とか『カラスに襲われないためには?』ていうような本ですか?それはちょっと…」
植木「いえ違うんです!カラスって本当は愛くるしくておちゃめで見ていて飽きないですよね。でもみんな『こわい』『ウルサイ』『迷惑』って言ってわかってくれないんです。だからカラスの本当の姿をなんとかわかりやすく伝えたいんです!」
松原「そうなん?(一般ピープルから同志を得た驚きで関西弁に戻る)みんなこわいっちゅうけど、カラスの子育てとかヒナの巣立ちとか見たら、愛情たっぷりでめっちゃ親近感わくんやでホンマ」
植木「じゃあカラスのかわいいところがいっぱいの本をつくりましょう!」
松原「そやな、学術論文以外でも、世間のカラスを見る眼が変わるような感じの本が出てきてもええな。じゃあ忙しいけどやってみよか」…
実際の本の中身は、はじめこそ、例えばハシブトガラスとハシボソガラスの違いとか、松原さんによる基礎編の講義のような文章が続くけど、(これも想像だが)植木さんから「もっとおもしろーい話ないですか?」とか聞かれるうちに、松原さんも「そやな、いくらカラスのこと詳しく書いても、ウケへんかったら意味ないもんな!」くらいのノリになったのでは?
だからカラスのペアリングについて松原さんは、強い雌は強い雄とくっつくという例えで、「カラスの世界では、しずかちゃんは多分ジャイアンと結婚する」と書いている。
でもまじめな話も書くと、松原さんをはじめ学者が多くの研究を費やしても、カラスの生態にはまだまだ理由不明な、不思議な生態が数多くあるのがわかった(だから松原さんもカラスに研究人生を捧げていると思うけど)。
それと、カラスが人を襲うというのは都市伝説の一種だ。(正確にはカラスは人を「襲う=攻撃する」のではなく「威嚇する」。野生動物の本能は、相手を襲って自分の命を落とすリスクを通常では冒さない)。
それらからわかるのは、私たち人間はカラスのことをある意味で無理解と誤解とで見ているということ。
でも残念ながら、私たち人間のことを振り返れば、先入観とかネットの断片的な情報とかで相手の人格などを無理解と誤解とにまみれて見ているのが目につくことでわかるように、偏見と迷信とで見ているのはカラスに対してだけに限った話でもない。
そのことを考えると、人間は確かに知能でみるとカラスより発達しているが、自然環境との調和や生態系への順応という点からみると、人間がカラスより発達していると言い切るのははなはだ疑問に感じる。
生物界の長い歴史のなかでは、カラスは人間よりもはるかに“先輩”であり、人間よりも長い時間をかけて環境に順応して今に至っているということを、私たちはもう少し謙虚さをもって考えなければならないのでは?と思い直した。
とまあ、まじめな話で終わるのも松原さん植木さんの本意でないと思うので、最後に、知的好奇心もくすぐられつつ、カラスの行動に関しての「自然ってうまいことできてるな」的な話が満載で読み物としても楽しめた、と書いて筆をおく。
- 感想投稿日 : 2020年3月20日
- 読了日 : 2020年3月20日
- 本棚登録日 : 2020年3月20日
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