桂南光師匠がツイッターで勧めていたので気になって読んでみた。南光師匠いわく「大阪の豪商『淀屋』をモデルに、幕府との攻防を面白く描いている。これを講談で聞けば手に汗握ること間違いなしの、エンターテイメント」
私世代はたぶん、淀屋っていえば社会科の教科書に「大坂米問屋が繁栄し、なかでも淀屋は天井をビードロ(ガラス)張りにして金魚を泳がせるくらいに栄華を極めた」って書いてあったのを思い出すはず。これって、どちらかと言えば「金満大坂商人の贅沢さの象徴」みたいな悪いニュアンスだったように記憶している。
それと比べてこの本に登場する理兵衛をはじめとした淀屋(作中では丹生屋)の商人はそろばんをはじいて金儲けと蓄財に血まなこになるステレオタイプの大坂商人像とは正反対。「わしら大坂根生いの商人はな、金を儲けることだけが仕事ではない。儲けた金をいかに使うかだ。民の幸せと国の安寧のために使ってこそ、金は生きる。」
贅の限りを尽くしてお上につぶされたのではなく、自分たちの地位と権益を守ろうとする政治権力に、勝てないケンカと承知で立ち向かい、市民や日本全体の利益を願う、高潔な“戦う商人”だった。
それと実は淀屋は大坂だけでなく、伯耆国(今の鳥取県)倉吉にも大きな関連があったというのも新しい発見だった。
著者の松本薫さんは鳥取県米子市出身。だから鳥取つながりで淀屋を調べたら、次から次と現れてとんでもないスケールにまで広がる“裏の歴史”に引き込まれたってところだろう。当時の歴史がお上から押し付けられて作られたんじゃなくて、理兵衛のような志熱い男がその志をお上に気付かれないように種子として残し、後々にそれが芽を出し花を咲かせ歴史に実を結んだのでは、と史料を読み解き気付いたと思われる松本さんの興奮がこの本から伝わってくる。
実際この本では、商人の話という枠を軽く飛び越え、大石内蔵助や後の八代将軍吉宗まで加わっての歴史大河物語となっている。また、史実をもとにしてるものの、少ない残存の事実に縛られず、身辺警護をする忍者を登場人物に絡めてエンターテイメント性を持たせることも忘れていない。
なるほど、南光師匠が言うようにページをめくる指が止まらなくなるほどの大活劇だ。
(2013/12/13)
- 感想投稿日 : 2015年11月8日
- 読了日 : 2015年11月8日
- 本棚登録日 : 2015年11月8日
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