ユリイカ 2023年12月臨時増刊号 総特集◎坂本龍一 1952-2023

  • 青土社 (2023年11月1日発売)
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まず冒頭に、昭和40年代生まれの私にとっての坂本龍一のイメージを年代順に追ってみた。
1 Yellow Magic Orchestraのブレイクは私が中学にあがったころ。人民服姿でTechnopolisなどを演奏する彼らを私は「すすめパイレーツ」で知った。だがYMO初期は私もまだ周りと同じく歌謡曲に夢中で、洋楽っぽいYMOにのめり込むのは少しあとの「増殖」から。スネークマンショーから入った(笑)。そして私がYMOのメンバーの中から個人としての坂本龍一を意識したのは「体操」で。拡声器を片手に「前ならえ」とか「ブルマ」とか叫んでいる坂本に「何これ」って(笑)。

2 坂本龍一の存在が強烈にインプットされたのは、やはり「い・け・な・いルージュマジック」の忌野清志郎との共演を見て。ザ・ベストテンでもあのド派手メイクで現れ、背景に流れる映像では上着のジャケットをはだけてお金の札を噴き上げたり、あげくには清志郎と唇が接するかどうかのキワキワまで顔を近づけたり。

3 そして戦メリ。当時私はビートたけしのオールナイトニッポンに夢中。たけしがラジオで「ラロトンガ島での映画ロケ中に坂本がプールサイドを歩いていた女性をプールに突き落とし、「ぼくの部屋で着替えるかい?」と言って連れ込んでいた」としゃべるのを聞いて、「坂本龍一ってそういうやつだったんだ」と大笑いした。真偽はわかんないけれど(笑)。

4 私が大学生当時、フジテレビで「音楽の正体」という深夜番組があった。そこで「戦場のメリークリスマス」が取り上げられ、この曲がなぜ日本だけでなく世界レベルで評価されるのかを追っていた。「ファ」と「シ」がないヨナ抜きのいわゆる日本的な音階の中に、たった1音だけ「シ」に当たる音を入れ、印象を高める効果をもたらしているという話だった。このときから私は坂本を稀有な才能をもつ“音楽家”として見るようになった。

5 少し年代が下り、再び私はテレビに映る坂本の姿に衝撃を受けた。「ごっつええ感じ」で松本人志が扮するアホアホマンと並んで、坂本がもう1人のアホアホマンとして登場したのだ。アホアホマンがどんな格好かを知っている人ならばその衝撃をわかってくれるはず。松本から「お前は本当に『世界のサカモト』か?」と言われた坂本がピアニカで戦場のメリークリスマスのフレーズを吹き始めたものの、最後の一音を絶妙に外し、松本から「やっぱりお前はニセモノだ」と言われるというオチ。

…と、なぜ私が自分にとっての坂本龍一の印象を勢いのままに並べたのか?(晩年の坂本のストイックな姿から見れば、ちょっと異質な印象のものが多いけれど(笑))
それはこの冊子でそれこそ各分野の多くの人が、自分にとって思い入れが深い坂本の数々の濃いエピソードを、お互い競い合うかのようにアップしょうとしているから。私も刺激を受けて自分の印象を蔵出しした次第。
だけど、そんな私の思いの何倍も濃密な坂本龍一さんへの熱い思いがこの冊子には溢れ返っていて、読んでいて飽きない。みんなそれぞれに良いのだが、強く印象に残ったものをあげておきたい。

A)小沼純一さんが坂本さんの中に、押しつけられることへの反感、反撥を、そしてひとりっ子的わがまま性と呼ぶべきものを見出していること(P165)。
B)渡辺香津美さんがあるセッションで坂本さんから「とにかく歪んだ音で。ジミ・ヘンドリックスみたいにね」とリクエストされ、休符のところでギターがキーンとハウリングしたら、坂本から「それが良いんだよね」と微笑まれたこと(P73)
C)山崎春美さんが「な・い・し・ょのエンペラーマジック」誕生のいきさつを書いていて、坂本にちょっと手伝ってもらう感覚でいたのに、坂本の思想にどう共鳴したのか坂本カラーが思いっきり出た作品となって出来上がり、坂本亡き今の時代に山崎さんが、もう一度坂本の時のように誰か一緒にやらないかと訴えていること(P88)

最後に、この冊子で私が一番印象に残ったのは、やはり冒頭の大貫妙子さんへのインタビュー。ここで語られたような大貫さんと坂本さんの関係って、みんな知っていたのかな?私は知らなかった。
でもインタビューで大貫さんは坂本さんとの思い出を少し照れながらも1つずつ丁寧に話してくれている。一方で、普段は離れていても必要なときにはいつでも自分のそばに来てくれた彼がもういないことに気づく瞬間の深い喪失感についても語っている。そして彼女がトータルで彼との思い出を楽しくてかけがえのないものとして大切に心の中にしまい続けていることが読めて、坂本と同性の身として羨ましくなった。掲載された大貫さんの写真もまるで坂本さんに微笑みかけるかのような表情に見えてすごくいい。世間が2人の関係をどう見ようとも、私は大貫さんが坂本さんと作った音楽を改めてじっくりと聞きたいと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月20日
読了日 : 2024年2月20日
本棚登録日 : 2023年11月25日

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