せめて一時間だけでも: ホロコーストからの生還

  • 慶應義塾大学出版会 (2007年7月2日発売)
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感想 : 4
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 この本に出て来る人は不思議と有名人や回想録の邦訳がある人がいるので意外と人間関係が分かりやすい。
 この本の「零時」のあとの紹介では出て来ないが、DDR時代のフンボルト大学教授になったヴォルフガング・ハーリヒはKPDと関わりを持った脱走兵なのに「普通の脱走兵」と違ってギロチン台にも強制収容所にも執行猶予部隊にも送られずに禁固3か月で済んだのは両親が有名人だからだろうか?
 ルート・アンドレアス-フリードリヒの「ベルリン地下組織」という邦題の日記はDDR時代の有名人ローベルト・ハーヴェマンが摘発された時に匿っていたユダヤ人の仮名を日記に記したと批判しているが、当の本人がコンラート・ラッテを仮名の「コンラート・バウアー」で書いている事は、この本には出て来ない。アンドレアス-フリードリヒの本の邦訳が出た時点では「コンラート・バウアー」は公表されるのを拒んだとあるのに、娘から家族について聞かれて心境に変化があったのが分かる。
 「零時」のあとのドイツで経歴を築いたラッテと違って、長い間ドイツとは絶縁していたアニタ・ラスカー-ウォルフィッシュとはブレスラウ時代の友人なので登場する。フランス語が話せるのでフランス人と称してブレスラウから脱出しようとしたとあるので、アウシュヴィッツでアルマ・ロゼの囚人オーケストラでフランス人の「編曲が出来るハスキーな声のシャンソン歌手」ファニア・フェヌロンと親しくしていたらしいが、彼女の回想録で自分と姉が「傲慢なドイツ人」と酷評されているので抗議をしたらしくフェヌロンの本の邦訳では「ドレスデン出身」の仮名扱いになっている。
 ラッテがユダヤ人学校でマイモニデスをラムバムと呼ぶのを習っていたので牧師が持っていた蔵書を言い当てて「ゲスターポのスパイでないという検査を無意識に通った」という個所がある。ラッテがマイモニデスを原語のアラビア語やヘブライ語訳の書名を読めるとは思えないので、おそらくドイツ語訳だろう。と同時に公然とマイモニデスの著書を書棚に並べていてもゲスターポがやって来るわけではないのも分かる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年9月20日
読了日 : -
本棚登録日 : 2023年9月19日

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