昭和39年(1964年)、富士山頂に世界一の気象観測用レーダーを建設・設置するまでの過程を活写した傑作。気象庁に勤めた新田次郎自身の実体験をもとにした、自伝的記録文学です。
「日本の象徴・富士山へのレーダー設置」という一大事業に対する予算獲得の話から始まり、メーカーの入札を巡る動き、建設途上での幾多の困難、そしてレーダー設置後の問題などを、当該事業に取り組んださまざまな立場の人物をとおして描いています。
遠くから見れば端麗な富士の容貌も、いざ近づいてみたならば「大自然の猛威」という言葉がぴたりと当てはまる、恐ろしい姿へと豹変します。山もしくは自然対人間の闘いという普遍的なテーマを取り扱う一方、役所と現場、メーカー、マスコミなど、人間同士の濁った・気味の良くない闘いもまた、この小説は取り上げています。
この山対人間、人間対人間の並列的な描写から、いざ、富士山へレーダーを建設する段になったときの、富士山に対する人々の真摯な向き合い方、まさに気持ちがひとつになるというか。そこに美しさを感じるのは、やはり、闘うべき相手が未だ誰もなしえなかった事業、それも富士山に対するものであったからこそ生まれた、人々の一致結束の姿に心を打たれるからでしょう。
山岳小説として読むことも、企業小説として読むこともできますが、やはりここは、厳しい自然に立ち向かった人たち(今から50年も前に生きた日本人)のひたむきな姿に、素直に感動したいところです。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
01.小説
- 感想投稿日 : 2013年3月25日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2013年3月25日
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