ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

  • NHK出版 (2011年7月26日発売)
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本棚登録 : 1418
感想 : 171
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映画公開前に読んで良かった、これはすばらしい。9.11を扱った小説は何冊か読んだ。やはりアメリカ人にとって悲劇を物語らざるを得ない出来事なのだろう、最近ではアーヴィングも然り。
本作が他と決定的に違うのは、現代性とバランス感覚。ホールデンの地獄めぐりと似ているようでいて、「重さ」はまったく質が異なる。父を失った少年は傷つき戸惑っているのだが、あくまでユーモラスで軽やか。「ありえないほど」「ゴーグルプレックス」「ホゼ」・・・こういう言葉づかいもたまらなくいい!
そしてオスカー側の軽快な主旋律の裏で、アメリカが加害者となった大戦のドレスデンの空襲が、祖父母の体験として重層的に描かれるのも重要だ。訥々と語られる惨劇は、重厚な音を奏でる。作者は広島に言及することも忘れない。恨み、怒りではなく、失ったものを悼み弔う、普遍的な鎮魂の物語となっている。
タイポグラフィやイメージを使ったビジュアル本的な作りも面白い。物語と緊密に結びつき、効果を生んでいる。デジタル世代の作る「本」は、文字+αであっていい。
これは評価するポイントではないが久しぶりに読書で泣いた。記憶に残る物語。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外
感想投稿日 : 2015年5月25日
読了日 : 2012年2月25日
本棚登録日 : 2015年5月25日

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