キャパの十字架

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  • 文藝春秋 (2013年2月19日発売)
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キャパの十字架

沢木耕太郎著 文藝春秋 2013年2月刊
ISBNコード : 978-4-16-376070-4
本体価格 : 1,500円
頁数・縦 : 335P 20cm


[目次]

第1章 崩れ落ちる兵士
第2章 真贋
第3章 彼の名前
第4章 小麦とオリーブ
第5章 その丘で起こったこと
第6章 突撃する兵士
第7章 ゲルダ
第8章 影は語る
第9章 ラスト・ピース
第10章 キャパへの道

沢木さんのこの本の最後に参考文献の一部としてこう記してある。
「マイ・ストーリー」イングリッド・バーグマン 新潮社

私は10代か20代の頃ロバート・キャパの「ちょっとピンボケ」も読んだのだが何故彼に興味を持つようになったかの理由がわかった。
私はバーグマンのファンだったので「マイ・ストーリー」を読み、そこに出てくる恋人の戦場写真家キャパにも関心を持ったのだった。
なんでもロッセリーニの映画をバーグマンに観る様に薦めたのはキャパだったとか..
キャパがロッセリーニとのキューピッド役になっていたとはその後のバーグマンの人生を思うと感慨深いものがある。

2月のNHKスペシャルと3月のEテレ「日曜美術館」を観て以来この本を読むのを待ち望んでいた。
昔「ちょっとピンボケ」を読んだ時は何の疑問もなく「崩れ落ちる兵士」は戦場での死の瞬間を撮った作品として観た。沢木さんも同じく最初は同じ感想を持ったと知ってホッ。
今回の検証で「崩れ落ちる兵士」がキャパの恋人ゲルダの作品である可能性が出てきてしまったがだからといってキャパの写真家としての地位や名誉が失墜するとは私は思わないし沢木さんもきっとそう思っていると思う。
むしろそのことがキャパを本物の写真家にし、「崩れ落ちる兵士」を十字架として背負うことによってそれに勝る作品をノルマンディー上陸作戦時でも撮った。
しかしこれが事実としたらなんと重い十字架だっただろう。

沢木さんの真実を知りたいと思う情念の強さには感服するばかり。フリージャーナリストというのは原稿料をもらえるまで取材費は全部自前で70年前の資料を入手したり当時とは面影の違う現場で検証するにも苦労の連続。

正直なところこの本ではキャパが創設し現在も彼の写真の著者権を管理しているマグナム・フォトから引用している多数の写真も全体的に小さめだし、TVでの映像に比べて文章と図だけでは撮影検証がわかりにくい部分もある。
沢木さんは写真家ではないしましてや昔のライカやローライフレックスのカメラの知識もそんなにもともとはなかった中、努力の末独自の説を構築されたのは本当にすばらしい。
沢木さんの真実に迫りたいという一念がキャパの研究家や写真家の協力を引き出し新しい説を導き出してくれたのだと思う。
Nスペでは沢木さんが独自でこの説を推理した風に述べられていたが彼がこの説を打ち立てられたのは今までの研究者たちや写真のプロなどの地道な研究が下地になっている。
ああNスペを観た後消してしまうのではなかった、本を読んだ後いろいろ再度確認したいことがだいぶ出てきてしまいました。
ゲルダについての記述がやや少なめであることが少し物足りない気もするが満足度★★★★★
きっとこの本は何がしかの賞を取るのではないかしら。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年7月26日
読了日 : 2013年5月25日
本棚登録日 : 2014年7月26日

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