思うところあって先月の新刊を選んでいたうち、タイトル買いの1冊。原題は“The Rainaldi Quartet”。
ヴァイオリンの町として有名なイタリアの町・クレモナで殺人事件が起こる。殺された職人は、どうも世界最高級レベルのヴァイオリンを極秘に探していたらしい…その事件を被害者の親友だった楽器職人と、ご近所住まいの刑事が追うミステリ。ひとすじなわではいかないディーラーとコレクターの間を行き来する少々強引な刑事と、捜査能力はなくても真実は突き止めたい職人のコンビは、相棒というよりも甥っ子とおじさんの仲。だからといって決してべたべたしたところはないので、過剰でももの足りなくもなくて快適に読み進む。
高価なヴァイオリンをめぐる状況というのは、以前読んだトビー・フェイバーのノンフィクション『ストラディヴァリウス―5挺のヴァイオリンと1挺のチェロと天才の物語』に記されていたものとよく似ている。『ストラディヴァリウス―』で描かれていたのは、音のために名器を欲しがる音楽家と、それが持っているとされる金銭的価値のために欲しがるコレクター、その橋渡しをときには危ない橋を渡りながら行うディーラー(プラス、ときには同じく危ない橋も渡る楽器職人)という、清濁併せのむ大人の世界。音楽家をのぞいた関係者の描写は、ひょっとしたらこの本が参考資料の1冊となったのかもしれない。
件の楽器をめぐる複雑な来歴が目くらましになって、なかなか展開が読みにくく、解けない謎を追い続ける感覚がほぼ終盤まで持続する。被害者が関わったコレクション界隈の人物もそれぞれ魅力的に描かれており、しかも平均年齢高め(笑)なので、アップダウンがあるわりには落ち着いたトーンで物語が進んでいると思う。個人的にはコレクターの姪、シニョーラ・マルゲリータの持つ、ザ・ヨーロッパのご婦人感が好み。読み手の注意をそらすために取ってつけたようなエピソードがないわけではないけれど、破たんなくストーリーも進み、ラストの展開も「ああ、そういうことね」と穏やかに微笑んでうなずかずにはいられない、いい塩梅の大人の解決方法で私は好き。
実在の名器の歴史上の動きが追えるし、ヴァイオリンの名曲や名奏者もディテールにちりばめられているので、クラシック音楽がお好きなかたにも面白い、腹もちのいいミステリだと思う。ただ、各所の書き込みがしっかりしすぎるゆえか、読んでいる途中でときどきうっとうしく思えてしまい、「そこまで細かくなくていいから!」とたびたび毒づきそうになったことを、ぬるいミステリ読みの私は白状いたします。
- 感想投稿日 : 2014年6月26日
- 読了日 : 2014年6月25日
- 本棚登録日 : 2014年6月2日
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