争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール
- 集英社インターナショナル (2011年12月15日発売)
体調不良でごく普通の治療を受けたはずなのに、スポーツ紙の誤報と直後のドーピング認定で、重い処分を受けた我那覇和樹選手(当時川崎フロンターレ所属)。彼のドーピング取り消しまでの動きを追ったノンフィクション。この本を読みたいのは、「我那覇、かわいそう!Jリーグと日本サッカー協会、カスだな!」とただ悪態をつきたいわけではなくて、誤った処分を公式にされたのち、それを個人の力で撤回させた、そのプロセスに興味があるから。
この騒動のもとは、つまるところ、当時のJリーグのドーピング対策の最高責任者が、治療に関するルールの改正をチームドクター達に知らせる際にあいまいにしておいたことと、そこを突っ込まれても持論を曲げず、ごり押ししたことに尽きる。何か先入観があっての処分なのかもしれないが、こういう処分には必ず、処分された側に弁明の機会が与えられるはずだし、それが機能していれば、ここまでこじれる話ではなかったはず。なのに事態はそうは進まず、バカみたいにこじれていく。アタマの悪さとプライドが結合すると、これほど厄介なものはないと思う。
正しくないルール(これには解釈の誤りとか、運用がまずいとか、意図がずるいとかいろいろあるけど、そのあたりをひっくるめて)に異議を唱え、立ち向かっていくことはとても難しい。正直な話、サッカー選手は、試合に直接関係があること以外のルールを読むのはしんどいだろうし、Jリーガーの平均引退年齢が26歳前後であることを考えれば、1シーズンでも棒に振るのは、時間がもったいなすぎる。でも納得はいかない。「出るとこ出てもいいんだよ」と示された仲裁機構は英語ベースでしかも高額の自腹必至。「はいはい、わかりました」で済ませられるものなら、済ませたいことかもしれない。でも、そこをそれで済ませなかったことは、我那覇選手の勇気以外のなにものでもない。彼を囲んだドクター、弁護士のプロ意識と、サポーターのみなさんの熱意にはもうアタマが下がるし、当時の選手会正副会長だった藤田・川島両選手のふるまいが素晴らしすぎて、涙腺のかたい私も泣きそうに…。・゚・(*ノД`*)・゚・。
J側がなかなかに往生際が悪い(笑)ので、随所で引用されるWADA(国際アンチ・ドーピング機構)の規程を、「自分の英文読解力、おかしいのか?」と不安になりながら読んだ部分もありました。それにしても、まずい訳を作り、そのまま盾にとって抗弁するという幼稚なテクニックを知ったのは収穫かも。「おぬしもワルよのう」の言葉と苦笑いしかありませんが。
最後は周知の事実のとおりで、『プロジェクトX』的なエキサイティングな内容にイッキ読み!でしたが、もう少しJリーグ側の取材が取れてもいいような気がした(彼らは話したくないだろうけど、明晰な反論があれば受け入れられると思うんだが)し、サブタイトルはなくてもいいんじゃない?と思ったので、☆ひとつ引きました。
- 感想投稿日 : 2012年3月9日
- 読了日 : 2012年3月9日
- 本棚登録日 : 2012年2月13日
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