公孫瓚の客将として、戦う劉備を見て、支えるべき大将と見定めた趙雲。
趙雲は、家来に加えてくれと劉備に懇願するが、断られ続ける。
そして、劉備は、公孫瓚と袁紹の講和調停を受けて、客将としての役割に見切りをつけ、再び流浪の義勇軍への道を選んだ。
陣払いの日、当然のように趙雲はそばにいて、劉備に従おうとした。
「さらばだ、趙雲」
劉備がそう言うと、趙雲だけでなく、関羽や張飛もびっくりしたようだった。
「家来にして頂けないのですか?」
「お前は、大将と言えば公孫瓚殿と私しか知らない。今この国に、大将は雲のごとくいる。それを見る為に、旅をしたらどうだ。少なくとも1年。それでも私がお前の大将に値すると思ったら、その時に、また私の陣へ来い。私は、どこかで戦っているはずだ」
「殿以外に、私の大将は考えられません」
「若いから、そう思うのだ。今お前に必要なのは、私以外の大将を数多く見る事だと思う」
「いやです。私を連れて行って下さい」
趙雲は、地面に座り込み、涙を流し始めた。
賭けだった。
1年の間、旅をすれば、従いたいと思う大将が出てくるかもしれない。どうしても欲しい男なら、今ここで配下に加えた方がいい。しかし、1年後にまた戻ってきたら、結びつきはもっと強いものになるはずだ。それに、純真なだけでなく、趙雲はもっと世間を知るべきでもあった。
「お願いします。何のために、常山の山中で10年も自分を鍛えたのか、と私は思ってしまいます。軍勢の端に、どうか私を加えて下さい」
「くどいぞ、趙雲」
「私のどこがお気に召さないのですか?」
「いや、お前のことは、高く買っている。流浪の身の私の軍に加わってくれるという気持ちも、ありがたいと思う」
「それなら」
「1年、旅をしてみろ、趙雲。旅をしながら、この国の姿をよく見るのだ。そしてその眼で、大将を選べ」
「待って下さい」
「くどい。男は、耐えるべき時は耐えるものだ。それが出来ぬなら、私の前から永遠に去れ」
趙雲がうつむいた。
土の上に、涙が滴り落ちている。
「進発」
劉備は関羽に言った。関羽は声を上げる。進み始めた。
さらば。
心の中で、劉備はもう一度言った。
軍が動き始める。
また、流浪の旅。千人の軍を受け入れてくれるところがあるのか。なければどうすればいいのか。劉備は、それを考え始めていた。
「戻ってこい、子竜。1年経ったら、必ず戻ってこいよ」
張飛が叫んでいた。
三国志 一巻 群雄の時より
- 感想投稿日 : 2016年10月10日
- 読了日 : 2016年10月10日
- 本棚登録日 : 2016年10月10日
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