徹底検証 日清・日露戦争 (文春新書 828)

  • 文藝春秋 (2011年10月20日発売)
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感想 : 18
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「坂の上の雲」の時代についての座談会。あの作品は勿論フィクションで,小説→ドラマと虚構の比率も増えていくが,実際はどうだったのか,いろんな薀蓄が語られる。
 日清戦争で北洋艦隊が壊滅するわけだが,「西太后が軍艦マニアでなくて何よりでした」という戸髙さんのコメントは面白い(p.52)。彼女が頤和園なんかの贅沢に費やした金が,艦隊につぎ込まれていたら…という話。やはり西太后は破格だな…。
 意外だったのは,あんなに小説でもドラマでも盛り上がった203高地陥落の意味。多大な犠牲を払って確保したあの頂上に観測所を設置,28サンチ砲で港内の艦隊を撃沈したというのがドラマチックだが,事実と異なるらしい。実際は,203高地を取る前に旅順艦隊は壊滅していた…。軍艦に照準は定められないが,地図上に書いたマス目を一つづつ撃っていったところ,命中していたとのよし(p.163)。
 日本海海戦については,宮中にだけ残っていて昭和天皇が崩御の直前に下賜された『極秘明治三十七、八年海戦史』という詳細な史料によって伝説とは異なる多くの事実が判明したそうだ。例えば,「天気晴朗ナレドモ浪高シ」だったために中止せざるを得なくなった連繋機雷を撒く戦法,こういう奇襲作戦を公にしてしまうとその後の戦争に差し支えるからという理由で秘密にされてたみたい。
 ともあれ日露の成功体験が,太平洋戦争の精神主義や奇襲偏重につながったというのはうなづけるな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2012年1月19日
読了日 : 2012年1月18日
本棚登録日 : 2012年1月18日

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