この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2013年10月25日発売)
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この本に興味を持ったきっかけは、約10年前に観た映画だった。『トロッコ』(2010年)で観た台湾の美しい風景が印象的だった。戦前・戦後に日本が統治し、現在でも日本語を話す現地人がいることを始めて知った。戦後、蔣介石率いる国民党が入ったことは承知していたが、それ以前のことは全く知らず、台湾のことも知りたかった。

フィクションではなくてドキュメンタリーだ。前半は根本博陸軍中将の終戦前後の行動を紹介している。中国北部といえば、満州にいた関東軍しか知らなかったから、すごく勉強になった。終戦直後の大陸での混乱はよく語られるが、それは多く満州のことで、満州より内陸の内蒙古からは、武装解除の命令を破って軍が四万人もの一般市民を守りながら、退却、引き上げしたことを興味深く読んだ。このとき不可侵条約を破って進軍してきたロシア軍からの防衛を了解した国民党軍への恩を返すために、戦後、台湾に密航し、その地に逃れた国民党軍を顧問として支えた元駐蒙軍・北支那方面軍司令官。また、蒋介石が1943年に行われた連合国側の会議で、日本の天皇制を支持したことも興味深かった。今の日本の天皇制は色々な人に護られてきたのだなぁ。

それから、日本統治下の台湾総督とその役人、台湾市民の間柄も密だったのだと思う。中国から来た国民党の人々(外省人)とその前から台湾に暮らす人々(本省人)の対立も、台湾だけの話ではない。なぜか、江戸時代の土佐や肥後の例が頭に浮かんだ。どこの国にも同じような事象が起こっているのだな。

共産党と国民党の戦闘はよく知らない、というのは外国の話だからだ。戦前、多くの日本人が大陸や台湾で暮らした時代と、私が生まれた時代では、この三国の距離はずっと離れていると思う。金門島がどこにあるのかも全く知らなかった。

密航したり、戦闘指揮をとったり利害を考えず、「義」に報いるのは、命がけで、すごく忍耐のいることだと思う。ちゃんと契約して報酬を受け取ったわけではなく、歴史に埋もれ、日本でも台湾でも隠され、忘れられていた事実を読んで、改めて「侍精神」のすごさを知った。電子書籍版

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年6月15日
読了日 : 2019年10月18日
本棚登録日 : 2020年6月15日

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