噺のまくら (P+D BOOKS)

著者 :
  • 小学館 (2015年11月10日発売)
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感想 : 5
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頂き物を拝読。

P+D BOOKSというのは、小学館から出た新しいレーベルで、2015年5月に創刊されている。Pはペーパーバック、Dはデジタルであり、紙と電子書籍が同時に刊行されるスタイルである。ラインナップには、昭和の埋もれた名著でありながら、現在入手しにくい作品が並ぶ。いささか渋い、玄人好みな雰囲気である。
ペーパーバックはB6版とやや大きめだが、見た目より軽量で、価格も安価である(本書の場合は233ページで500円+税)。表紙がそれぞれの作品のイメージを複数色の横縞で現したデザインで統一されていてなかなかおもしろい。本書は黒・柿色・萌葱色で、寄席の定式幕(じょうしきまく)のイメージである。歌舞伎の舞台や、お茶漬けやせんべいのパッケージなどでもおなじみだろう。

さて、本書は、落語界、昭和の大名人である三遊亭圓生の「まくら」集である。まくらといえば、落語の本題に入る前の導入部分で、小話だったり、オチに関係する基礎知識などを語り、客の心を掴むものである。これが65編収められ、その内容を示すタイトルや、本来どの噺のまくらだったのかも記されている。
どの話も短くて細切れ時間にも読める。

圓生は明治生まれで、活躍した時期は昭和だが、読んでいるとすぅーっと地続きに江戸が見えてくる感じがある。銭湯や五節供、通夜に葬式といった庶民の風習、音曲師や幇間(たいこもち)や都々逸詠み、呑気でありつつこだわりのある江戸っ子気質。川柳やら狂歌やらを散りばめ、ときに下ネタも混じるのだが、これがまた直接的でないのに何やら生々しくて奥深い。
圓生の生きていた頃は、まだ実際に江戸のものが息づいていて、自身が触れたもの、師匠世代から受け継いだものが、すぐ手の届くところにあったのだ、という感触が伝わってくる。
そうでありつつ、この話はどうつながっていくのかと先への興味を惹かれるのは、さすが、名人の話術というところか。
ないものねだりで本題の噺が読みたく(聞きたく)なってしまうのが難といえば難だが、非常に味わい深い、江戸へとタイムスリップするような、奥行きのある1冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伝統芸能
感想投稿日 : 2016年7月29日
読了日 : 2016年7月29日
本棚登録日 : 2016年7月29日

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