最後の注文 (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社 (2005年10月26日発売)
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感想 : 10
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ロンドンの下町。
肉屋のジャックが死ぬ。
ジャックは、友人たちに1つ最後のお願いをする。
死んだら遺灰を海にまいてほしいというのだ。
皆で集ったパブで最後の注文を聞かれたように。それが彼の人生の「ラストオーダー」。
壺を囲んで集まったのは、八百屋のレニー、保険屋のレイ、葬儀屋のヴィック。
そこへ義理の息子のヴィンスがベンツを乗り付けてくる。
4人の生者と1人の死者の不思議な道行が始まる。

物語は、語り手が移り変わりながら、短い断章で綴られていく。いずれもモノローグ。旅に同行しない、ジャックの妻もまた語っている。
思い出の中から、ジャックと家族や友人たちの過去のあれこれが浮かび上がる。

よい思い出ばかりではない。
嫉妬もあった。いがみ合いもあった。腹の探り合いもあれば、裏切りもあった。
父の息子への想いは踏みにじられ、妻の夫への願いは振り払われた。
死者を許せないこともある。おそらく死者が許してくれないこともある。
だが。それでも。

「弔い」とは「安らかに(RIP、Rest In Peace)」を願うばかりではなく、あるいは死者にまつわる苦い想い出も抱えながら、残りの人生を共に生きていくことであるのかもしれない。

聖人ではない、かといって極悪人でもない、1人の男が生きて、死んだ。
男が遺したものは何だろう。
男の灰が海風に舞う。
風は、男を覚えている人たちを包み込み、やがて去り、また舞い戻る。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: フィクション
感想投稿日 : 2022年6月14日
読了日 : 2022年6月14日
本棚登録日 : 2022年6月14日

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