一風変わった読書案内である。
本書の著者は「黄色い本」などで知られる漫画家・高野文子。
紹介される本の著者は、朝永振一郎・牧野富太郎・中谷宇吉郎・湯川秀樹。
日本を代表する科学者であり、また一般向けの著書もある人たちである。
彼らは、寮母のとも子さんとその娘の幼児きん子ちゃんが営む学生寮「ともきんす」に住んでいる。そこは時空を超えた不思議な場所である。若き日の朝永が、牧野が、中谷が、湯川が、ときには悩みつつ、ときには生き生きと、自らの研究の萌芽を抱え、それを花開かせる術を探し求めている。
自分は研究をするしかないとどこかでわかっていながらも、道を模索し煩悶する朝永。
飄々とした自由人であり、貧窮しても意に介さず、「天然の教場」で学び続けた牧野。
徹底した観察力の根底に、どこか「非科学的なもの」へのあこがれも捨てなかった中谷。
天才的でありながらどこか木訥とした風もある湯川。彼が綴る「詩と科学」の一篇はなかなか味わい深い。
シンプルな絵柄の中に、それぞれの科学者がそれぞれの個性で生きている。
さりげないエピソードとともに、彼らの著書がそっと差し出される。
科学は不思議だ。
というより、世界の不思議さに眼を留め、それはなぜだろう?と立ち止まって考える、それが科学だ。
ヒンヤリした手触りの科学への扉を開け、科学者たちの言葉に静かに耳を傾けるとも子さんの姿勢がとてもよい。
静かに、静かに、世界の不思議へ。
静かに、静かに、科学の手引きで。
それはまた自分の内へと向かう旅のようでもある。
読後には、読んでみたい本のおみやげも付く。
派手ではないが極上の旅である。
- 感想投稿日 : 2015年3月20日
- 読了日 : 2015年3月20日
- 本棚登録日 : 2015年3月20日
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