山怪 山人が語る不思議な話

著者 :
  • 山と渓谷社 (2015年6月6日発売)
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本棚登録 : 1004
感想 : 129
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著者はフリーランスカメラマン。礼文島から西表島まで、全国を股に掛け、主にマタギなどの狩猟を取材する。
本作はそんな取材の際に、あちこちの山人から聞いた、山に関するちょっと怪しい物語。
タイトルは「やまかい」と読むのかと思ったら「さんかい」と読ませるらしい。

1つ1つの話はごく短い。
突然現れる白い道。勇んで進むといつの間にやら藪の中。
ふっと現れて個室トイレを使う女。去っていく後ろ姿を見ると足がない。
狐に取り憑かれた家。狂った息子の背中をどやすと息子はおとなしくなったが、今度は母が大暴れ。オオカミを祀る神社からお札をもらうと異変は収まる。
悪天候の中、たどり着いた小屋に近づいてくる錫杖の音。シャン・・・シャン・・・。止んだかと思ったら一瞬後にドン! 小屋までもが揺れる。

別段、オチはない話もある。不思議だが、結局何だったのか、最後までわからない話も多い。
笑い話で済むような話もあるが、実際に人の命が失われることもある。
不条理だけれど、そんなこともあるのだと何となく人々が納得してしまっていることもある。
そしてこれが「現代に」あったことだというところが本書のミソだろう。

しんと静まる山の中に、一人取り残されたような、何だか心許ない話なのだ。
怪談と呼ぶほどは怖くない。呪いや祟りと呼ぶほどおどろおどろしくない。
見間違えたのだとか錯覚だとか、説明を付けようとすれば付きそうなものもあるが、むしろ謎は謎のまま放置しておきたいような、そんな気もしてくる。
この感覚はどこか、遠野物語にも似ている。
生身の体で山に一歩踏み込んだとき、人は無防備で、あまりにも無力なのかもしれない。

闇のしじまに目を凝らし耳を澄ます、そんな心持ちがする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2015年11月20日
読了日 : 2015年11月20日
本棚登録日 : 2015年11月20日

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