在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活

著者 :
制作 : 荒木優太 
  • 明石書店 (2019年9月6日発売)
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感想 : 65
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「研究者」というと、大学や研究機関に所属し、自分の研究分野に関連する学会や学術雑誌で研究成果を発表する人というイメージだろうか。
もちろん、そうした研究者は多いが、本書で扱うのは、いわゆる「在野」の研究者である。つまり、「職業」としての研究ではない、どこにも「所属」しない研究である。
編著者を含めて、さまざまな分野で、己の興味の対象を探求する総勢18名。
さて彼らがどのように今の研究スタイルにたどり着き、どのように研究を推し進め、どのように発表の場を持っているのか、研究者自身の執筆により、または対談形式でその姿に迫る。

大学などの「在朝」研究者に比較して、「在野」の研究者のハンディとなるのは、研究に充てる時間また費用であろう。しかし一方で、カリキュラムやしがらみに捕らわれることなく、己の興味の向くままに、突き詰めて1つのことに取り組みことができるのが利点である。
「在野」の性質上、大掛かりな研究設備や機械が必要な分野には関与しにくい。したがって、本書で取り上げられる研究者は多くは人文系であるのは無理のないところだろう(例外は博物学的な生物研究者。この分野は古くから在野研究者の多いところでもある)。

現代ではインターネットの発展で、在野でも多くの資料に触れることが可能となってきている。非常に恵まれているともいえるが、それだけにどこに目を付け、どのように展開していくのか、「切り口」が大切になってくるともいえよう。
政治学、AI、視覚文化、活字史、妖怪、哲学。さまざまな研究者の姿から見えてくるのは、在野といえども閉じこもるのではなく、他の研究者とつながり、視野を広げていくことの大切さである。
在野としての自由度をどのように最大限に使っていくのか、キーはそのあたりにあるのかもしれない。

個人的には、青空文庫に関与し、また翻訳研究者でもある大久保ゆう氏の話をとてもおもしろく読んだ。

「研究」というと堅苦しいが、趣味の延長のように始まる「研究」があってもよいのではないか。もちろん、それを追究し、何らかのレベルに到達するのは難しいことなのではあるが。
多くの「在野」研究者の姿から、興味を惹かれる研究分野、あるいは研究スタイルが見つかりそうな、刺激に満ちた1冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年4月14日
読了日 : 2020年4月14日
本棚登録日 : 2020年4月14日

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