謎の独立国家ソマリランド

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  • 本の雑誌社 (2013年2月19日発売)
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ソマリランド。
それはソマリアの中にある「独立国家」である。括弧でくくったのには理由がある。ソマリランド側は独立国家と主張しているが、国際的にはそうと認められていないのである。

内戦が収まらない国の一角にある、十数年、平和を維持している独立国。本人たち以外はその存在を否定し、情報はきわめて少ない。
そう聞いた著者は興味をそそられる。何せ、著者のモットーは「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も知らないものを探す」である。
少ない伝手を辿り、ソマリランドの謎を探るべく、現地へと飛ぶ。

紛争地域が主題の本、しかも500ページというかなりの大部である。
読む方としては身構えるわけだが、これが予想を覆して「おもしろい」。
すごいことをやっているのには違いないのだが、まったくしかつめらしくない。
紛争地域の本を読んでいて声を出して笑う箇所があるとは思わなかった。しかもそれが1箇所や2箇所ではない。
著者は込み入ったソマリアの内情を、アニメや日本の歴史上の登場人物に喩えながら説明していく。
著者の体験談が相俟って、感覚的になるほど、と思わせる説得力がある。

遊牧民気質のソマリ人は即断即決である。仕事は早いが、人の話を最後まで聞かないし、物は大抵放ってよこすし、屁理屈議論をふっかけてくるし、何かというとカネを要求する。
初めはそんなソマリ人気質になかなか馴染めなかった著者だが、現地の風習を手がかりにして、ソマリ人から話を聞き出すことに徐々に成功していく。それは、現地の男たちが興じるカート(覚醒作用を持つ植物)宴会。ひたすら葉っぱを囓り、じわっと効き目が現れるのを待つ。ひとたびハイになれば何でもどんとこいである。なんと商談や政策も、そんな宴会の中で決まることが多いのだという。
著者は、ソマリ語を学び、ソマリの歴史を学び、そこに住む人々の懐に飛び込み、頼りになる伝手をどんどん増やしていく。カート宴会で得た知識や人脈ももちろんフルに利用する。
最終的に、著者はソマリランドの「平和」がなぜ可能であったのか、ソマリア独特の氏族と掟の有り様から、結論を導き出す。

探検家感覚の現場主義はまったくすごい。仕舞いには著者は、苦手と思っていたソマリ人気質にすっかり染まって、ソマリ人を言い負かすまでに至る。
恐るべし、ノンフィクション作家魂。

笑いながら考えさせられ、新たな視点をもらえる1冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2014年4月24日
読了日 : 2014年4月24日
本棚登録日 : 2013年9月4日

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