山口晃 親鸞 全挿画集

著者 :
  • 青幻舎 (2019年2月1日発売)
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感想 : 9
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山口晃が五木寛之『親鸞』の新聞連載の挿絵を描いているというのは聞いていたのだが、当時購読していた新聞には掲載がなく、時々、出先などで目にすることがある程度だった。これ、まとめて見てみたいな、でも書籍化しても連載の挿画が全部掲載されることなんてないよな、と思っていたら、なんと、挿画集が出たという。

『親鸞』はかなりの長編である。
新聞連載が始まったのが2008年9月、休みを挟みながら、全三部が完結したのが2014年7月。回数にして1052回という。
本書では、そのすべての挿画に加え、ボツになったもの、ラフプランも収録。さらに、1作ごとにコメントが付く。これがむちゃむちゃおもしろい。

五木寛之は連載開始前に、「思う存分やって下さい」と話したのだという。言葉通りに思う存分やっていたら、割に早い段階で「指導」があったという。
挿画家は作者と読者の中間のような位置にいるものなのだろう。作者が見ている方向と、それを読んだ読者が見る景色、その間で何を絵とするのが適切なのか。どの程度の距離を取り、どの程度作品に沿うのか。
一連の作品は、作者と挿画家の丁々発止の駆け引きのようでもあり、真剣勝負の記録のようでもある。
例えば、主要人物の顔は描かないように、さらには後ろ姿でも描かぬようにと指示が来る。イメージが固定されるのを嫌ってのことだろうが、ではどうするのか。
制約がきつくなりすぎて、ときに描けなくもなる。
連載当初には比較的まとまって原稿をもらえていたが、徐々にギリギリのことも増えてくる。日々、迫りくる〆切。先の読めぬ展開。直前に入る直し。
何だか聞いているだけで胃が痛くなりそうである。

そんな中でも、限られた大きさの画面にさまざまな画風でさまざまな試みがなされる。
時には描き込まれた写実的な絵。時には荒々しい線で。時には現代の風景も織り交ぜ。時には脱力系の判じ絵。時には漫画風も。
構図やタッチについての画家ならではのコメントをそういうものかと興味深く読む。

山口晃の視点はどこにあったのだろう。
作品世界にどっぷりつかるというよりは、少々斜めから見て、ひねりを加えて読者に提示する。それが作品にさらに奥行きを与える。
そんな挿画だったのではなかろうか。
それを確かめるには、本書を横に、完結した『親鸞』を読んでみるべきなのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 美術
感想投稿日 : 2019年7月13日
読了日 : 2019年7月13日
本棚登録日 : 2019年7月13日

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